この国を出よ
当書の価値は言及するまでもないが、気になる点が幾つかあるので敢えて星は1つ減らした。政治・経済・人材に触れた各所においてそれぞれ評価すべき点と批判的に見るべき点があると考える。当書の激励に全力で応えつつ、批判的な視点も忘れずに両巨人を超えてゆこうとする「蛮勇」こそ読者に求められている。
日本の財政が破綻必至であるとの指摘は正しい。「政治家は口先だけで何も実行していない」とする指摘も正しい。しかし最大のバラマキは子供手当などではなく年金と医療である。予算額を見れば明らかだ。積み立て、納税した額より多く貰おうとするから大赤字になるのだ。(北欧諸国は育児支援に多額の予算を投入して女性就労率を引き上げ、一人当たりGDPを高めている)
日本の経済界にもロールモデルが少ないとの指摘は鋭い。資産課税も現下の状況における最適解だ。しかし「日本の税率が高過ぎてやる気を失わせる」は単なる都市伝説である。オランダ・デンマーク・スウェーデン・オーストリアは日本より所得税・付加価値税ともに日本より重いが、一人当たりGDPはいずれも非常に高い。豪州も実は最高税率が高い。「重税で成長率低下」との仮説は実証研究で否定されている妄言だ。
平気で選挙干渉を行い、小学校の段階でエリート以外の人を切り捨てて教育するシンガポールの陰鬱な側面も忘れてはならない。富裕層を集める税制も、人口小国だからこそダイレクトに効果が出るのである。
単に2007年と2010年とを比較して「若者が海外に出て行こうとしない」と規定するのは間違いだ。歴史的に見て日本人は一気にギアチェンジして変貌する民族である。江戸時代の鎖国から開国へ至る過程を見れば明らかだ。人材はいないのではない。見えていないだけである。輝かしい成功例が出てくれば、ホリエモンの頃の俄起業家ブームと同じく続々と猫も杓子も海を渡ってゆくだろう。
尚、個人的な見解としては、ファーストリテイリングの後継者が見つからない理由は、事業内容の自由度が狭く経営幹部にとって魅力的でないためである(ソフトバンクやユーシンと比較すれば明らかだ)。社内で働くにはイケアの方が何十倍も面白そうだし、事業自体の輝きという点においてはクロスカンパニーの方が遥かに優っている。ファーストリテイリングは単競技に特化されたストイックな強者であるが、数字に現れる強さ以外の理念や哲学、社会をより向上させる多様な価値が見えてこない。つまり、人を惹き付ける力が弱いのだと思う。
『イケアの挑戦 創業者 イングヴァル・カンプラードは語る』
一勝九敗 (新潮文庫)
・(私の勉強不足かもしれませんが)
ここ数年の”全く盛り上がらない国内消費”をベースにしていて、
ユニクロ程度の企業規模を持ち、売上を順調に成長させている企業を
私はあまりあげることが出来ません。
そんな希有なエクセレント・カンパニーの経営者は
何に悩み、どう行動したのか を少しでも読み取れないかと思い、
本書を手に取りました。
・読後感ですが、やはり、希有な経営者だと思いました。
家業の店舗を任されたところから、店舗拡大、FC化、IPO
関東進出、フリース大成功 と時系列で書かれてて気づかされる箇所が
非常に多かったです。いくつか印象深いところを。
−経営はスピードと実行・実践である、と。
考えすぎずに早くやって、早く失敗する。
一直線の成功はあり得ないので、成功の陰にある失敗を財産として捉えて
次に生かす。致命的失敗=倒産だけ避ければ実態は「一勝九敗」で
良いのだと。頭の良いと言われる人に限って、計画や勉強ばかりで
結局実行しない傾向がある、と。
極論を張れば、”あらゆる計画は机上の空論だ”と思っている、と。
−フリースの大成功とその後の低迷
フリースの成功は
・質の良い商品、安い価格(1,900円)
・優れたプロモーション(原宿への進出とTV・CF)
そして、一大ブームになってしまったが故に失敗の芽が出てしまったと。
フリース以外の商品も相乗効果で売れに売れ、商売って簡単だと誤解した人。
商品を補充さえすれば売れるので自動販売機状態になり、内容より形式に行ったり。
また、そんな状態で良いという大企業転職組が保守的雰囲気を
作り出していったと
−英国進出の失敗
・現地法人は現地人で経営させたい、の結果、
イギリスの階級文化がそのまま経営組織に反映されてしまった。
(日本の社長からバイトまでが一丸になって経営を考える風土の真逆に)
・社長と現地責任者のコミュニケーションロスから3年で50店という
目標だけが一人歩きして、採算度外視の出店計画を決行してしまった。
・気候の違いを考慮しない商品展開
(日本ほど湿度が無いのでドライポロシャツが全然売れなかった。)
など。また「中途半端なゼネラリストやスペシャリストは要らない」
「日米のクリエイターの違いなど」他にも色々勉強になりました。
プロフェッショナルマネジャー
経営のノウハウ集ではない。精神論でもない。自慢話、美談を綴った
ものでもない。強いて言ってみれば、経営者の心のメモというか日々の
仕事のメモである。
「読みにくい」のは、話をきれいにまとめているわけではないからで
ある。泥くさい、生の話を詳細に記述しているからである。
一般的に言われていることを排し、0ベースで自ら思案し、悩み、
もちろん間違いも犯す。そういう全ての心の動き、考えの軌跡を編集
ぜずに(ということは実際はないだろうが)淡々と書かれている。
柳井氏の教科書であるということは別にして、経営者でなくとも、
自分の人生を生きたいと願う人全てにとって、多くの勇気ももらえる
本だといえると思います。