シュピルマンの時計
「戦場のピアニスト」の著者ウワディスワフ・シュピルマンの長男、クリストファー・スピルマン氏が、亡き父を偲んで書いたエッセイ。
同じ姓なのに(Szpilman)、カタカナ表記が父は”シュピルマン”、息子は”スピルマン”になっているのは、父親が本と映画で”シュピルマン”として有名になるずっと前から、クリストファー氏が日本に在住し、”スピルマン”の名で学者として活動してきた…という事情による。本書も翻訳本ではなく、スピルマン氏が日本語で書いたものである。
戦後のシュピルマンは、結婚して子供もでき、おおむね平穏で幸せな人生を送った模様。少なくとも、特段の不幸(精神をひどく病む、貧困にあえぐ、共産主義政権に迫害される等)はなかったようで、何よりである。だが、さすがにホロコーストの体験が、ずっとトラウマになっていたようだ。たとえば、幼い息子の身を案じるあまり、自転車や海水浴を問答無用で禁止する、ケガをして帰宅した息子を逆上して殴る等、異様に偏狭で神経質な側面があったという。
著者は、そのような”普通じゃない”父親に、若干のわだかまりを抱いていた。だが、父はナチスに家族を根こそぎ奪われたため、新たに得た家族だけは何としても失いたくないと思い詰めていたのだ…と最近になって察し、せつない気持ちで昔を思い出しているという。
「戦場のピアニスト」の後日談として興味深いのはもちろん、普遍的な親子の葛藤のドラマとしても、しみじみとした味わいがある。本であれ映画であれ「戦場のピアニスト」に感銘を受けたなら、読んで絶対損はない。
ヒーリング・ベスト
ストレスで寝付きが悪い子どもの為に、オルゴールのCDを探していました。
聞き慣れた曲や好きな曲があって子どもも気に入ってくれました。
私も就寝前に聴きますが、ざわついた神経がすーっと落ち着き知らぬ間に眠りに入れます。
お薦めです。
戦場のピアニスト [DVD]
物語をドラマチックに見せる演出を排除した、静的な映像が特徴的。主人公シュピルマンと彼の家族に迫る死の影を、暗澹とした気分で、ただ静かに見守ることを義務づけられた作品と言える。シュビルマンの「心の声」や個人的な見解が皆無というのも、この作品を陳腐な政治メッセージから完全に解放している。言葉で表現せずとも、観客(視聴者)は映像から全て理解できるということを監督は知っている。人の声によらず、弦の響きだけでテーマを伝達する「ピアノ」に通じる静的な演出のひとつに違いない。
ポーランドが大戦に巻き込まれた背景や、戦争そのものの推移、ワルシャワゲットーの誕生と崩壊など、詳細な説明は一切ない。知っていれば良し、知らなくても良し。観客(視聴者)はスリガラスの向こうの人影の動きを見るように、冷厳な時代の流れを薄ぼんやりと感じながら、映像によってシュピルマンの運命を辿るだけ。おそらく、新聞を読まない、本も読まない、ラジオには出演するが時事放送は聴かないというシュピルマン本人の視点で、彼と同レベルの情報を頼りにドラマを解釈できるように意図されているのだろう。二度にわたるワルシャワ蜂起も、シュビルマンの潜伏する窓から見える、ごく小さな世界の中の出来事として、見事に描いてみせた。彼は「戦争」という時代の流れの中を、木の葉のように漂流するロビンソン・クルーソーなのだ。ロビンソンが絶えず命の危険に怯えながら、孤独と戦い、偶然出逢ったフライデーと心を通わせ、生きながらえることができたように、シュピルマンはドイツ陸軍ホーゼンフェルト大尉に見出され、彼の援助で生き残る。音楽を愛する、良識あるドイツ軍人とのめぐり合いは奇跡以外のなにものでもない。
「戦場のピアニスト」を普通の戦争映画だと思って観ると、失望するだろう。ここには、戦場での激しい戦闘シーンはなく、勇躍する兵士達の姿もない。しかし、この作品の「戦争映画」としての価値はいささかも揺るがない。
「戦場のピアニスト」オリジナル・サウンドトラック
映画"戦場のピアニスト"の主人公・シュピルマンがナチス将校ホーゼンフェルトの前で実際に弾いたとされるノクターン嬰ハ短調に始まって、映画のクライマックスでのバラードト短調、エンディングでの希望に満ちた華麗なる大ポロネーズまで、ショパンの作品中でもメランコリックな性格の楽曲を中心に構成されている。そして本来の意味での唯一のサントラであるキラールによる1曲をはさんで、最後にシュピルマン本人の録音によるショパンのマズルカで締めくくられる。実際に劇中で使われているのは4曲だけだから、「サウンドトラック」というよりは「イメージアルバム」といった趣が強い。
だがこれは、一枚の「ショパン・アルバム」としても十分に楽しめる。ショパンの9曲を演奏するのはポーランドのピアニスト、オレイニチャク。ナショナル・エディションの楽譜に基づく録音でもメイン奏者として貢献しているが、本CDでの演奏も見事だ。ショパンの作品の中にある悲劇的ロマンチシズムを十分なデリカシーをもって見事に描き出していて、劇中で使われていない曲にまで映画のイメージがかぶさってくる。ショパンに対するセンチメンタルで女々しいかのような浅薄なイメージをこの1枚で塗り変えるに十分な、渾身の名演だ。
最後におかれた、シュピルマン本人によるマズルカがまたいい。悲劇の主人公が実際に奏でる音が映画のイメージと共鳴して、それが単なるフィクションではなかったことを思い知らされる。そこに描かれたポーランドの悲劇、底に流れるのは、やはりポーランドの魂を持ったショパンの悲哀そのもの。映画も演奏も、まさにポーランドの魂が時代を超えて共鳴した結果なのだ。
どこかで聴いたクラシック ピアノ・ベスト101
選曲も、聞いたことのある曲が多く、ベストCDである。音質もよく、演奏者も有名そうである。一部に短くカットされた曲もあるが、気に入ったベストCDだ。ただ、"乙女の祈り"が短かった(約3分)ので星4つ。