輝きの一瞬 (講談社文庫)
いわゆるショートショートが30編、どれも10ページ前後で気軽に読める。
短いだけに、ストーリーにメリハリをつけるのがかえって難しそう。
「これは」と印象に残ったものをいくつか。
落合恵子『探偵ごっこ』。公園に行くおじいちゃんを探偵ごっこで、こっそり尾行する孫。ほのぼのとした結末。
高橋三千綱『相合傘』。ある雨の日の出来事、その後の中年男の寂寥感。
小沢章友『死の天使』。研修中の看護師が壁に貼っていく手作りカレンダー。本格ミステリに匹敵するショートショート。
光る風
70年代に日本中を爆笑の渦に巻き込み一世風靡したギャグ漫画『がきデカ』〈1974〜81〉の著者・山上たつひこ氏が弱冠23歳の若さで『巨人の星』『あしたのジョー』などの大人気作品が掲載されていた黄金時代の『少年マガジン』に連載〈1970・4・26〜11・15号〉され、40年が経過した現在でも語り継がれる異色のポリティカル・コミックの傑作である(余談であるが、漫画界のヒットメーカー・浦沢直樹氏も漫画人生を語る中で本作を挙げておられた)。
軍靴の響きが聞こえ、増大な国家権力が横行する近未来の日本を舞台に先祖代々由緒ある軍人家系で育った高校生・六高寺弦。国防隊(旧・自衛隊)のエリート幹部候補生・光高を兄に持つ彼は兄とは違った生き方を模索するも時代の闇に翻弄されていく…。
六高寺家に住み、後に弦と運命を共にする家政婦・雪、六高寺家の主で愛国教育を授ける弦の父親・六高寺甚三郎、弦の慕う良き相談相手でもある芸術家・高村興太郎、ある事件の調査で囚われの身となった高校の担任・大杉誠、大杉と共に活動を続ける教え子・金城道夫、寺田修二、ある事件の村の出身者で事件について調査しようとする出版社社長・古谷信吉、隔離された島の出身者で革命を目論む反政府リーダー・堀田洋三、米国人に人一倍の警戒心と憎しみを抱く憲兵隊・天勝大尉などなど…。
私自身、子供の頃に朝日ソノラマ刊行を読み、内容を把握して読んでいたわけではないのだが、冒頭の藻池村の異形祭や出島住民に対する強制召集において出頭を拒む若者とその両親を国防隊の特務班員が躊躇いなく射殺するシーン、囚われた弦が収容所の便槽を糞尿に塗れながら泳いで脱出するシーン、負傷兵となって帰還した兄・光高との衝撃の再会など物語の断片での凄まじい描写に子供心ながら脳天に突き刺さるようなとてつもない衝撃を受けた(余談であるが、当時本作と『バイオレンスジャック』(東京滅亡編)と『漂流教室』は小学生だった私にとっての大きなトラウマだった)。
今回、改めて読み直してみて作中での国防隊のカンボジア派兵(PKOによる自衛隊のカンボジア派遣)や防衛“庁”が国防“省”(防衛省)に昇格しているなど所々に現在の日本を予見した内容に驚きを感じた。感想に関しては先のレビューにほとんど書かれているので控えさせて頂くが、当時大ヒット作品の影に発表された本作や『アシュラ』、『キバの紋章』といったアンダーグラウンドな作品が生まれたこの1970年(昭和40年)代という時代そのものが戦後65年の歴史のなかで日本が最も血の濃い時代であった事を象徴している作品であるように思う。