新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)
この作品には起承転結のある筋書きがない。
若者たちがセックスとドラッグと暴力の虜となり、
たまに奇行に走る様が繰り返し描かれているのみである。その描かれ方がとても詩的なのである。
「リュウ」という青年が語り手なのだが、
この主人公の奇妙な存在感のなさに未経験の味わいがあった。
リュウの目の前に広がる現実から語り手自身が浮いている感じなのである。
傍観者ぶって目の前の出来事に対してジッとしている訳でもないのに。
それゆえ語り手の目で切り取られた世界が、奇妙に静かなのである。
乱交の真っただ中にいるときでさえ、
彼は「僕はここは一体どこなのだろうとずっと考えている。」と心の中でつぶやく。
筋らしい筋のなさ、および饐えたアングラ描写に親しめない読者は多いかもしれないが、
一個の「文学的な新しさ」を創造し得ている作品には違いない。
私が読んだ芥川賞受賞作では最も強く「受賞妥当」と感じた。
よく当時の選考委員は今作を見出してくれたと思う。
ヨシヤマとケイの遣り取りは、今のDVを想起させた。
「小さい頃走って転んだりすると、ヒリヒリする擦り傷ができて、
その傷一面に強い匂いの染みる薬を塗ってもらうのが好きだった。
こすれて血の滲んだ傷口には必ず土や泥や草の汁やつぶれた虫がこびりついて、
泡と共に染みる薬の痛さが好きだった。」とはリュウの終盤の観想であるが、純粋に共感してしまった。
インストール スタンダード・エディション [DVD]
あまり期待しないで観たが、意外と良かった。初々しい少女らしさを感じさせる上戸彩の演技、音楽と映像、どれも良い。
ストーリーは、自分をリセット(再インストール)しようという17才の女子高生と、10才のマセガキが偶然出会い、エロ・チャットのバイトを通じて、エロスの世界を垣間見るというもの。
確か上戸彩は山田優と同じぐらいの年だが、たとえば山田優では、女性として完成され過ぎているだろう。やはり、上戸彩がはまり役だと思う。
インストール コレクターズ・エディション (2枚組) [DVD]
『インストール』本編が映像作品として優れているかというと、そうとは言いづらい。
しかし、本作品における特典映像の充実振りは素晴らしく、目を見張るものがある。
このコレクターズ・エディションの購入を考える層には、恐らく神木隆之介か上戸彩の
ファンが多いと思われるが、十分に期待に応えるだけの内容があることだろう。
特に、今をときめく神木隆之介の成長記録としての価値は極めて高い。
なお、本作品におけるメイキング映像は『上戸彩inインストール』とは別物である。