ホルスト:惑星
小澤さんらしい躍動感あふれる演奏です。徐々にクレッシェンドしてくる「火星」の緊張感、それに続く「金星」のおだやかさ、「水星」のコケティッシュ、そして「木星」のダイナミズムへと進行していくのが非常に快く感じます。オーケストレーションもボストンso.の力が見事に発揮されていて、弦・金管楽器とも一糸乱れぬ演奏を展開していますし、海王星もコーラスはとてもきれいです。
それだけ良ければ十分満足だろうと思われそうですが、実は少しだけ注文をつけたくなる箇所もあります。それは木星の後半部で、なんとなく音の広がり感が乏しくなるというか。スケールが小さくなるというか、そんなところが若干物足りないと思うのです。よく言えば抑制の効いた演奏ということになるのですが、できれば、かつてメータが演奏したように、多少テンポを落としても更なるスケールを感じさせる盛り上がりが欲しかったようにも思います。
そういえば、昔、増田貴光氏(!)が解説していた頃(‘71前後)の土曜映画劇場のエンディングテーマが「木星」の後半部でした。ここにくれば、私はどうしても(平原綾香ではなく)このシーンを思い出してしまいます。やっぱりトシですね・・・。
(文句は言いましたが、★5つの価値は十分にあります。)
惑星(紙ジャケット仕様)
RCAの4枚目のレコード。今回の再リリースはBMGからになりますが、現在マニアの間に流行している紙ジャケ仕様。ジャケットに担当者のこだわりが見られ、発売当時を再現してくれています。
ジャケット本体は国内盤、インナーのブックレットが米国盤(カラー)のジャケットがプリントされています。これだけでも日米のジャケットが楽しめます。
それだけならまだしも、今回はオリジナルの2chマスターテープより96kHz/24bitのデジタルリマスターが施され、音質も改善されています。以前のCDでは「火星」のエンディングに不満があった箇所もオリジナルに戻されています。ヒスノイズに隠されていた音を探す楽しさを満喫しましょう。
それまではクラシックをシンセサイザーに置き換えたというだけのアレンジだったのに対して、ここでは“冨田の惑星”になっています。特に天王星と海王星が交互にオーバーラップするアレンジには、思ってもいなかった効果に興奮するでしょう。冒頭の管制塔とロケットのやりとりなど、多くの部分で“パピプペおじさん”が活躍。金星の美しさといったら例えようがありませんが、ただ木星だけが物足りません。
火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
パラテラフォームと軌道エレベータという、何だか実現しそうな火星未来都市が舞台。地球から月、スペースコロニー、火星と、徐々にスペースノイド化していく背景がしっかり見えた。
連続殺人鬼とはみだし刑事の緊迫した場面から始まる。SFとハードボイルドは、アシモフの「鋼鉄都市」やディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」でもおなじみのように相性がいいのだ。
本作のもう一つの工夫は共感能力というワンクッションおいた超能力。自分の意志で発揮するサイキック能力ではなく、自分以外の意志をサイキック能力として発現させるというものだ。だからだれかと関係せざるを得ない。ペアを組まざるを得ないのだ。設定として非常に巧妙だった。
なのに、アデリーンの共感力がだんだん普通のサイキック能力に変化してしまったのは残念だった。
なんでもかんでもめでたしめでたしって訳にはいかない文庫本結末には納得。