モーツァルト:ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付き」
フォルテ・ピアノによるアンデレアル・シュタイアーのモーツァルトのソナタ集の第2弾。
「トルコ行進曲付き」を含む充実した作品が並んでいる。
それはそれとして、まあ、一聴して椅子から落ちそうなくらいびっくりした。
そもそもフォルテ・ピアノで演奏するという意味は何なのか?
現代のピアノと違い、こよなく軽いタッチで、乾いた響き。。。そこに古の響きを求めてか?
ここで求められる答えは「否」である。
まさに、そのフォルテ・ピアノの特性を最大限に活かして、作品に対してきわめて「攻性」なアプローチを試みるため。
それが今回の答。
すなわち、ここで聴かれる多彩な装飾音の数々は、もはや装飾にはとどまらず、音楽の骨格として新たな礎となっている。
いままで聴かれなかったパッセージによって、次々と浮かび上がる華やかな楽想は、まさしく抜群の悦楽をもたらすのだ。
実際、「原典主義者」と呼ばれる人にしてみれば、卒倒ものの異端演奏かもしれない。
しかしここで息づく豊な音楽の生命力たるや、滾々たる湧水のように尽きる事が無い。まさに今生まれた音楽!
ためしに聴くならなんといってもかの有名な「トルコ行進曲」であろう。
ちょっとピアノを習った人であれば、頭に入っているはずのあの楽譜が、原型を留めないほどに崩壊して再構築されていくさまは、まさにスリリング。
百花繚乱トルコマーチを堪能してください!
J.S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988 (J.S.Bach: Goldberg Variations/ Andreas Staier) (1CD+1DVD)
わたしも,グールドの新旧録音をきいてきた人間です.しかし,シュタイアーのゴルトベルクとなれば,ともかくもきいてみたい.というわけで,早速手に入れました.全く納得のいくものでした.自在という言葉がおのずと浮かんでくるような,技術的に高度で変化にとんだ演奏です.自在さの印象は,装飾によるところも大きい.繰り返しが行われていますが,最初に鳴らしてアリアの装飾をきいたときから,完全に納得です.
添えられたDVDの映像で,本人がレジストレーションについて語っていますが,長大な全体を効果的に響かせるための綿密な設計に基づいている.しかし,そうした作為を感じさせない自然な活気を帯びています.とくに後半,豪壮という感じの16変奏,一転して,孤独感をたたえて奏でられる25変奏の時を経て,以降,30変奏のクオドリベットまで輝かしく盛り上がる.それだけに,最後に戻ってくるアリアの感慨深いこと.冒頭と同じ音楽なのに,一抹の感傷を伴って響くこの終結にはおそれいりました.この曲の真価を示すものといいたい.
わたしも若いころは「決定盤」選びなどしたものですが,もうそういう聞き方をしなくなって久しい.まして,こんな曲は,いろいろなアプローチを楽しみたいものですから,これだけあればよいとはいいません.そのときの気分によっては,少し「うるさい」と感じられるかもしれないとも思います.しかし,この曲が数学的計算に基づいて「睡眠薬」機能を期待された退屈な曲ではないことを,音で証明したとでもいいましょうか.繰り返しきいて,あちこちに発見がある録音です.