lain‐安倍吉俊画集
画力の凄さは、一級品!安倍氏の描く人物も良いけれど、背景と小物、マシンの描写にとにかく参りました。キャラクターをさらに深く描いている描きおろしの漫画作品もとても良いです。lainを知らない人でも、その絵の凄さに惹かれるかもしれない。
NieA_7 〈期間限定生産〉 [DVD]
見終わってから時間を置いて蘇る。自分が思った以上に自分の中に入り込んでいたのだと気づかされる。「NieA_7」はそんな作品です。
今日に至るまで数多のヒロイン像を演じ続ける声優川澄綾子ですが、まゆ子役はとびきりの好演です。作り込んだ感は薄く、むしろ自然体で演じている錯覚を覚えます。
ファンタジーでありながら生活感に溢れた作品です。普遍的ノスタルジーに触れる感じは、恐らく世代を超え、見た人が共通に思うところではないでしょうか?
序盤は若干ドタバタな印象を受け、ニア(cv;宮村優子)というキャラクターに抵抗を感じるかもしれません。しかし話数を重ねるにつれ、その宇宙人の中に渦巻く混沌に共感し、弱みを見せないポーカーフェイスに愛しさを覚えるでしょう。
この作品には貧乏があります。白いご飯と梅干しをご馳走と感じるニアやまゆ子の姿に、素朴にしてしなやかな営みが持つ逞しさを思い、飽食に慣れた我が身の安穏な日常を後ろめたく省みます。
まゆ子とニアは屡々彼らが暮らす下宿の屋根に上ります。そこで自らの過去や未来を漠然と思います。屋根からは「母船」と呼ばれるUFOの影が朧に見え、その景観はこの作品が醸すノスタルジーの象徴となります。
自称「−7(アンダーセブン)」のニアは周囲に自由な存在として映りますが、まゆ子はそんなニアに対し他人事の憧れを感じているわけではなく、ニアの危うさに自分を重ねます。何者にも管理されない自由は頼りない根無し草であり、自分の居場所や将来、ルーツ、そんなすべてに不安と孤独を感じてしまうまゆ子自身の似姿を見ています。
周囲は人情に溢れ皆やさしい人たちばかりですが、そういうことで得られる温もりとは別次元の孤独が人間の中にはあります。まゆ子とニアの中に私たちはそうしたものを見、そこに郷愁を覚えるのでしょう。二人の間にある得難い絆に羨望の眼差しを送るとともに。
serial experiments lain 〈期間限定生産〉 [DVD]
1998年放送。
当時このアニメが最先端を行きすぎており理解不能な部分もあった。
今こうして見ると、エポックメイキングであり最先端を行っていたと気づくのは10年以上経った今である。
時代が追いついた。
ネットワーク現代社会。
SNSが一般的になり、現代今現在を「リアルワールド」、ネットワーク上の仮想空間をアニメの中で「ワイアード」と呼び、この境目が曖昧になった世界が舞台であるが、これはまさしく現代を揶揄している。
リアルに「居場所がない」と口にする若者が多い。
ネットワーク上の仮想空間に身を委ね、自分ではない自分をそこに存在させ、浸かりすぎて自分の存在が曖昧になっていく。
いずれ死語になるであろう今よく使う「リア充」なんてのは、ネット社会ありきで生まれた言葉である。
充実という言葉にリアルをつける必要がない。ドッぷりネットにつかってしまい、リアルと仮想を意図的に別けないといけない人間の言葉である。
このアニメがすごいのは、そうした現代の現実と仮想の「境界線」が曖昧になることを見事に「予見」していた。
余談だが、携帯電話がすでにスマホのようなものになっていたのもビックリ。
もしかすると、このアニメに影響を受けた人たちが、社会人となり活躍している証拠かもしれない。
あまり騒がれなかったアニメだが、新時代に影響を及ぼした驚異的アニメだ。
ですぺら(ロマンアルバム)
「lain」スタッフの最新プロジェクトが発足したと聞いて以来、楽しみにはしていたのですが、「『lain』の時のように、連載後はひとまとめになるだろう(安倍氏のlain画集を参照)」と、アニメージュは読んでおりませんでした。
この単行本では、安倍吉俊のイラストと小中千昭の小説と解説、そして制作の舞台裏を明かす文章、さらに大正時代を考察する寄稿文が収録されています。小中氏がこだわった文体には読み手の好き嫌いがはっきり出るようですが、自分は見事な仕事をされたと思っています。
が、あまりに残念なのは、解説パートの内容が、聞いていた内容とあまりに違っていること。
連載時には、小中氏が偶然大正時代に記録されたデータを発見する、小説部分はその採録に他ならず、最後にはその作成者が小中氏のもとへやってくることをメールで予言する、という魅力的なメタフィクション形式で作られていたにも関わらず、その要素が徹底的に削除され、歴史考証の記述に終始している。
アニメージュのバックナンバー以外でそれを確認できるのは、「ユリイカ 特集:安倍吉俊」の、中川大地氏の評論だけ。
大正時代の資料なんて、こうした本で掲載しなくても、いくらでも存在します。寄稿文は蛇足に過ぎず、その分、小中氏の文章の完全収録をすべきでしたね。
しかし、単体で見れば質はとても高い。自信を持っておすすめします。
リューシカ・リューシカ 1 (ガンガンコミックスONLINE)
『ニア アンダーセブン』など知る人ぞ知る著作を持ち、熱烈なファンを獲得している安倍吉俊氏。
そんな安倍さんの久しぶりの新作。
今回は幼い子供の視点を描いたちょっと不思議なデイリーコメディ。
というわけで、随分久しぶりとなる安倍さんの漫画。
本作は全編フルカラーというのが最大の特徴であり、1冊の頁数は少なめ。
しかしフルカラーとしてはこれでも大分お値打ちな方であり、割高感はない。
内容的には『よつばと』などに代表されるこれといったストーリーもなく、とりとめもない日常を描くタイプ。
コンセプトは、空想癖のある子供からすると大人にとってはなんてことない日常すらこんなにも波乱に満ち溢れているのだ、といったような塩梅。
故に「考えるな、感じるんだ」といった趣があり、リューシカを通して描かれる作者の感性を読者が感性で受信して楽しむ作品。
面白いと思うかどうかは完全に個々人の感性次第なので、実際に読んでみるのが一番だろう。
(ガンガンONLINEにて無料購読の形式で連載中。現在も1話と一部のバックナンバーが登録やソフトのインストールなしに読める。要Flash)