作曲家ダイジェスト CDブック シ ョ パ ン
CD付きブックには結構やっつけ仕事がありますが、この本はショパンの名曲30曲の解説とその一部の演奏(「ピアノ三重奏曲」だけ音源が未収録です。ただし落丁ではありません)、そして途中途中に「作曲家を知る」コラムをはさむという体裁で丁寧に作られています。特に久元祐子氏のピアノ名曲の解説(19曲を演奏家の立場から解説しています)が読みごたえがあります。
ハイドンとモーツァルト
当時のフォルテピアノ(レプリカ)による演奏だそうである。当然音色は現代ピアノと大きく違うが、弦の弾けるような独特の音が直接伝わり、この楽器に合わせた録音のせいでもあるのか、小ぶりのサロンで鑑賞しているような雰囲気につつまれる。当時の楽器は良く言えば楽しく明るいが、悪く言えば平板といった印象があったが、表現の多彩さは現代ピアノに劣らず、低音部などには意外な深淵さが感じられる。なるほどチェンバロから現代ピアノに至る過渡期の楽器であるからだとすれば、それも頷ける。ただ聴くだけでも楽しく美しいアルバムだが、おそらく時代背景も含めた丹念な考察と解釈の成果でもあるのだろう、両作曲家のフォルテピアノに対する取組みの違いが演奏者自身による解説で論じられており、このアルバムの価値をさらに高めている。
学習するモーツァルト
雨上がりの朝、モーツァルトの初期ソナタを聴く。至福の時である。まず変ホ長調K.282、身体の中を風が吹き抜けるようだ。2曲目からはクリスチャン・バッハとモーツァルトの同調ソナタが交互に披露される。バッハのト長調ソナタはシンプルで美しい。第二楽章の変奏曲が特に好きだ。3曲目は同じト長調のモーツァルトで、第一楽章ではバッハとのテーマの類似性が指摘される。なるほどそうか。第二楽章アンダンテの美しさはこの作曲家の真髄。4曲目、5曲目はニ長調のソナタ比較だが、大曲とも言える「デュルニッツ」ソナタ(完璧な演奏である)の部品がバッハから来ている、という指摘は、研究者でもあるこの演奏家ならではであろう。力を抜いてうっとり聴くのも良し、解説に導かれて「学習」するも良しの価値あるアルバムだ。
モーツァルトのピアノ音楽研究
ピアノソナタを中心にピアノ音楽を通してモーツァルトの生涯を追うのがメインになっている。
著者は以前にモーツァルトのピアノ作品において重要なのはソナタでなく変奏曲であると主張する本を書いていただけに、ここでソナタが語りの主体になっているのは皮肉な感じであるが、そのソナタの曲分析がとても面白い。
全曲について語られているわけではないが、最新の研究による作曲年代の推定を基にして、従来からあるこれらの曲への見方を変えてくれるものがあると思う。
とりわけ、これまであまり魅力を感じなかった後期のソナタの魅力には初めて目を開かされた思いである。
それに加えて楽器やハイドンとの関係、即興とカデンツァなどの記述もある。これらも演奏者としての著者の経験が生きていてなかなか興味深いものがある。
個人的には非常に得るものが多かった。
作曲家別演奏法 久元 祐子:著
★ロマン派4人の作曲家について、それぞれの代表作の譜例をあげ易しく読み解く。
【作曲家像】基本的な知識+作風や時代背景など。
【コラム】作曲家の逸話など。
【作品解説】短い譜例付き、具体的な演奏のポイントも。
これらの中で、適宜差し挟まれ語られるエピソードや著者の感じた思いが、読み進める上で非常に楽しく、作曲家や作品に対しての興味をそそられる。
★難しい楽曲分析に抵抗のある初級〜中級程度の学習者に最適の本だと思います。
また、本のサイズが小さめでページ数も多くないので、隙間時間に手軽に読むことが可能です。
「終わりに」として、現代のピアノ以外の鍵盤楽器についても書かれてあり、これもおすすめです。