クイック・ジャパン90
転機となったのは、爆笑問題・田中の登場だったと思う。
それまで、知る人ぞ知るとか、誰も知らないという人選が『QuickJapan』の表紙の特長だったと思う。
しかし、上記の田中登場以降サブカル寄りとはいいつつも比較的メジャーな、表紙買いをさせるような人選になっていって、最近は「ウンナン」「銀魂」など知らない人の方が少数な表紙になっていた。
今号は久々に、「誰?」という表紙だった。
なので、昔の(vol20以前の)号を読んだ時のような興味深さを覚えながら読めた。
「神聖かまってちゃん」が本当に国民的バンドになるのか、それとも時代の徒花なのか、今後は見守って行きたいと思った。
小島慶子インタビューは大変興味深かった。
AMラジオの今現在エース級番組『キラキラ』の今後に、その動向に直結する小島慶子の退職騒動。
心配していた人の多くにとって、安心を得られるインタビューになっているのではないか。
特に小島のAMラジオ復帰を喜び、評価していた伊集院光が感激するような発言もあったと思う。
あとはいつも通り、細かいコラムは全て興味深かった。
他のインタビューも吉田豪のサブカル対談、ゲスト鈴木慶一も良かったし、羽海野チカの『3月のライオン』のインタビューも良かった。
今号は表紙に訴求力がないかもしれないけれど、内容は充実しているので、是非とも読んでもらいたい。
人のセックスを笑うな [DVD]
桐生市にある美大生の磯貝みるめ(松山ケンイチ)、みるめが愛欲に溺れる年上の女ユリ(永作博美)、そしてみるめにひそかに恋心をいだくえんちゃん(蒼井優)。一応は脚本があるようなのだが、3人のスーパーナチュラルな演技によって、本作品にはまるで即興演出作品のような雰囲気が漂っている。普通そういう演出をするとスクリーンから役者の緊張感が伝わってきて観ているこっちも疲れてしまうのだけれど、全編を通じて流れているほどよく肩の力の抜けたほんわかしたムードが心地よい。
リトグラフ制作の代行講師ユリ(39歳)がみるめ(19歳)を家に連れ込んで誘惑、年上女の色香の前にあっけなく陥落するウブな男。AVなどにありがちな山崎ナオコーラ原作のちょっと読み下世話なお話も、井口奈己の手にかかるとおされな恋愛ムービーに生まれ変わるから不思議だ。愛ルケのようなきわどい性描写などは当然カットされいて、みるめとユリが毛布にくるまってチュウをするぐらいのたわいもないシーンがあるだけなので、デート・ムービーとしてもおすすめできる。
松山はともかく、旦那(あがた森魚)がいながら若い男にちょっかいをだす開けっぴろげな人妻を怪演した永作と、それに負けじと片想いのおこちゃまギャルをナチュラルメイクした蒼井の演技合戦が見所だ。奥行や抜け感を強調した長回しが多少冗長で眠たくなってはしまったが、リアルな三角関係が微妙な緊張感を生んでいて、中味が空っぽな脱力系コメディとはひと味違うサジ加減がなかなかよろしい1本だ。
指先からソーダ (河出文庫)
新聞の連載が終わって寂しくなり、7月に本になるというので
楽しみに待っていました。山崎さんのほかの作品は読んだことが
ないのですが、20代女性らしい いきいきとした感性に触れることが
でき、幸せな時間を頂いた気がします。卒論が「源氏物語」だった
とのことですが、今後、女性を中心とした時代小説などにもトライ
して頂けたらと思います。今後のご活躍を楽しみにしています。
人のセックスを笑うな (河出文庫)
本書が「文藝賞」を受賞した際に、選考委員たちはその「センス」をこぞって絶賛したという。
たしかに、軽妙な文体であるし、ユーモア感覚にもすぐれていると思う。読後感も爽快である。
しかし、この「爽快さ」の源は「センス」だけではないだろう。この「爽快さ」は作者の「こころざし」から来ているのではないだろうか?
本書に併録されている『虫歯と優しさ』をあわせて読むとよく分かるのだが、
この作者は世間ではあまり光が当たらず、ネガティブな評価しか与えられていない人々をまるごと「肯定」しようとしている。
この「肯定」しようという「こころざし」が登場人物だけではなく、読み手の抱えているコンプレックスや不全感をもやさしく溶かしてくれるのではないか?
そして、それが読後のすっきりした爽快感をもたらすのではないか?
そんな風に思われた一冊でした。