BIUTIFUL ビューティフル [DVD]
2010年に、メキシコ、スペインで共同制作された本作品は、余命僅かの男の残された日々を描く、佳作。
スペイン・バルセロナに暮らすウスバルは、別れた妻との間に生まれた姉弟を引き取り、生活のために、不法な仕事もこなす日々であった。
そんな彼に下ったのは、癌による余命二ヵ月の宣告だった…。
主人公が40代の成人男性ということもあり、激情に駆られた哀しみと言う表現ではなく、自分の人生で長い間持っていた「わだかまり」をどのように整理していくか、という視点で、残された時間に冷静に対処していく姿が印象的な作品です。
作品中には、いくつか象徴的な事象があり、これからご覧になる方の参考として綴ってみます。
【BIUTIFULとは?】
タイトルを観て、綴りが誤っている、と思った方も多いのでは。
私は、スペイン語の綴りか、とも思ったのですが、邦題は、アルファベットとカタカナの並記になっていることから、この綴りには何か意味がありそうです…
【若い男】
冒頭、主人公が雪の降る林の中で、若い男と会話するシーンがあります。
この男は誰?
やがて、主人公は思わぬ形で、その男に遭遇するのですが…
【2つの「…」】
時折、部屋の天井が映るシーンで、見間違いか、と思われる「…」が目に映ります。
また、主人公が人を抱き締めるシーンで、聞き違いかと思われる「…」が耳に届きます。
それは、同じようなシーンで次第にはっきりとしてくるのですが…
最後に、――本作品は余命僅か、と言うことで「死」をテーマとした作品と言えますが、同時に「生」をテーマにしているとも言えましょう。
本作品が、生み出されるきっかけとなった、末期癌に侵された男を描いた黒澤明監督の映画のタイトルは「生きる」ですから。
夜になるまえに ― オリジナル・サウンドトラック
ずっと見損なっていた映画を相当遅れて、やっと観ました。ジュリアン・シュナーベル監督作品3作中ではベストだと思いました。そして、音楽もベストでした。
特にキューバン・ミュージックのファンではありませんが、絶妙な陽気さと哀愁のミックスチャーは、当時のキューバを音楽自体が映画の主題を物語っていて、素晴らしい!
単に、あの映画に対する選曲が良かっただけかもしれませんが・・・。
逆に、音楽は音楽で完全に独立したパワーをもっており、音楽を聞いても映画のシーンを思い起こさせない。
通常映画は、映像と音楽が表裏一体になっており、どちらかが欠けると、どちらかだけだと、その両方の「マジック」が失われる。
何度も、それには失敗した経験があり、今回は成功!でした。
映画の内容と同等にその音楽も優れていたと思います。
そして、原作も読みましたが、敢えてあの作品を映画化したシュナーベルを監督として尊敬します。おそらく、一作家として原作者に対する深い共感と愛情があったからできたことでしょう。
その深い思いが、音楽に至るまで徹底的にこだわったことが伺える一作そして一枚です。
夜になるまえに [DVD]
主演のハビエル・バルデムが、アカデミー主演男優賞候補になり話題になった作品。
時代は、キューバ革命前から描かれる。
同性愛の作家が、カストロ政権下で迫害と弾圧を受けつつ、自由を求めて亡命する。
自由って何だろう?と考えさせられた作品だが、決して重くはない。
人が人を思う気持ちは止められないもの。
肉体は滅びても、思想は滅びないもの。
共演者として、J・デップが二役で登場するのが見所。
取り調べを行う軍服姿が凛々しい美形の将校、あっと驚くような女装のボンボンちゃん。
J・デップの美しさを再確認できるような二役だった。
無修正でオヤっと驚くような水中シーンあり。
浜辺で語られる「ゲイ」の種類のうんちくが面白い。
万人受けは難しそうだが、J・デップファンを含め一見の価値がありそうな作品。
キューバ革命、カストロ政権をちょっと違う角度から捉えていて、興味深い。
「自由」を求めた末に得たものは・・皮肉。
夜になるまえに【廉価2500円版】 [DVD]
■もしも、自由に何かを表現するという事が禁じられてしまったら…。当たり前にある自由が、ある時代のある国では、悪とされて、弾圧の対象となってしまう。ジョニーみたさに買ったのですが、色々な事を考えさせられる映画でした。監督は、前衛画家という事もあって、色が綺麗です。
■レイナルド・アレナス(ハビエム・バルエム)/書くという事に対しての、ひたむきな情熱が伝わってきます。書く事で自分を表現するする事を知り、書いていた事によって投獄されたアレナスを救ったのは、囚人達の手紙を代筆してあげるという、書く事だったのです。
■モーロ刑務所のゲイの囚人ボンボン(ジョニー・デップ)/金髪にヒゲと、ブラウンの髪にミニの巻きスカートの2パターンがあります。運び屋でもあるボンボン、お仕事中の表情が妙にリアル(笑)いくら、経験豊富(アレナス談)たって、あんなに入るんでしょうか?
■ビクトル中尉(ジョニー・デップ)/ボンボンとはうって変わって、アレナスを尋問する役。アレナスが、瞬間、自分の立場を忘れて、妄想してしまうほどの美男ぶり(っていうか、タイプだったのか?/笑)
■ラサロ・ゴメス・カリエス(オリヴィエ・マルティネス)/可哀想な生い立ちのラサロ(原作に詳しく書かれています)出所後のアレナスと、生涯の親友となる青年。廃墟の寺院でのアレナスとラサロの心の交流が、友情の始まりで、このシーンは淋しい心を持っている2人の様子が自然に描かれているのです。心が安らぐ事が少なかったであろうアレナスに、ラサロがいてくれて良かったと思いました。ニューヨークの摩天楼の下で、生まれて初めて見た雪にはしゃぐ、アレナスとラサロのシーンは、とても印象的です。「アイラブニューヨーク」と印刷されたビニール袋が、とても皮肉で、残酷なまでに悲しかったです。
■原作「夜になる前に」(レイナルド・アレナス/安藤哲行・訳/国書刊行会)/8センチほどの厚さのある本で、過酷な人生を描いているのですが、とても読みやすかったです。ボンボンは、創作キャラだったみたいで、そのモデルとなったような女装のゲイたちについては書かれていました。映画では「運び屋」とされていましたが、この本では「赤帽」と訳されていました(笑)文字通り、何でも入れちゃうんですよ。女装のゲイたちは、海が満潮になったら浸水してしまうような地下室に収監されていて、手製の武器を隠し持っていて、仲間同士のケンカの時はそれで戦ったそうです。囚人同士のケンカは面白い見世物になっていて、暴力や、殺人が横行していて、いかにそういうトラブルに巻き込まれないよう、気を使っていたかという事も書かれています。
ボンボンが登場する、シチュエーションは、月に数回行われていた屋上での日光浴だそうです。劣悪な環境のせいで、ノミやしらみがたかるので、虫干しをするのと、屋上から海が見られたので気分転換ができたので、囚人たちはみんな楽しみにしていたとか。
■「夜になるまえに」のタイトルの由来/アレナスが、キューバ国内を野宿しながら逃亡中に、小説を書くのは、夜になって暗くなったら書けないので、「夜になるまえ」に書かなくてはならなかった経験からきているそうです。
■ボンボンの意味/チョコレート菓子の他には、スペイン語(キューバの公用語)では、口語で「美人」
夜になるまえに [DVD]
アレナスの恐るべき自伝を映画化した、それだけで賞賛に値すると思います。ただし、ないものねだりを承知のうえ、原作と比較して2,3気がついたことを以下に書きます。
まず、アレナスがハバナへ上京する場面。カメオ出演のショーン・ペンをもっと観たかったのは別にして、極貧出のアレナスがカストロ主導の革命に熱狂して身を投じ、のちに革命政府のお陰で高等教育を受けるにいたったことには触れられていません。つまり、革命がなかったら作家アレナスは生まれていなかったかもしれない。信じた革命政府による弾圧というのが重要です。
つぎに、原作の主題ともいえる自由なキューバ的性愛生活、愚かなほどに若い男たちと昼夜問わず「めくるめく冒険」をしまくる部分の描きこみが稀薄です。まるで魔術的リアリズムと思えるほどですから。
そして一番残念だったのは、死を賭して渡った自由の国アメリカでの、アレナスの想像を絶する絶望がほとんど描かれていないこと。「何でも金次第の、魂のない国」が彼の自殺をはやめたとさえいえるくらいで、原作を読んでもっとも苦しかったのがこの部分でした。
と、いろいろあげつらいましたが、ハビエル・バルデムの鬼気迫る演技は絶賛に値しますし(アメナバル監督作品などでも証明済みでしょう)、映像の美しさや展開のスピード感など、躊躇なく傑作といえる作品だと思います。また、DVDのパッケージデザインや付録小冊子も非常に良いです。