レコード芸術 2011年 07月号 [雑誌]
クラシック雑誌はどのみちネタ切れだ。一批評家を大々的に特集するとは新しい意匠で、私は面白いと思った。97歳でこれだけ明晰に話せ、書けるというのは素直にすごい。ギネスものではないかと思う。アメリカには100歳を超えて作曲しているエリオット・カーターみたいなのがいるとはいえ、だ。スーパー老人たち。
問題は、吉田秀和のどこが、なぜ偉いのか、納得させてくれないことだ。偉いことが前提になっている。新著の「永遠の故郷」は、最初から「未曾有の傑作」ということになっている。そして、「吉田秀和賞受賞者」たちが吉田に捧げる歯の浮くような美辞麗句・・・読んでいて吐き気がしてくる。業界的配慮の塊りのような文章群で、繰り返し使われる「批評」という言葉が皮肉のように届く。
「永遠の故郷」を読んではいないが、小林秀雄晩年の「本居宣長」が出版された時を思い出す。大家の晩年の作、誰も文句が言えない、大傑作に違いない、という空気。私は読んだが、そんな面白くなかったぞ。でも、文句が言えない。批評家が「批評」を無力にする皮肉。どうせどっかの文学賞がついてくる・・・。そして静かに忘れられていく。批評家の銅像は建たない、と言ったのはゲーテだったか。
吉田秀和の文章はもちろんたくさん読んできた。別の評者も指摘する「かしら」文・・・フェミニンな文章で、ときどき気持ち悪いが、読みやすく、ためになった。読者として感謝してます。だが、要するに解説の人、紹介の人で、モーツアルトの交響曲を編纂しなおすような学者的業績があるわけではなく、国境を越えて影響力をもった文人でもない。音楽や演奏家の選択も穏当さが特徴で、ひとことで言えばディレッタント。山の手文化、都会派の文化エリート、高等遊民、旦那芸、啓蒙主義、微温的、お上品、お金持ちのご趣味的な、要するに朝日新聞文化部的なかほり。それのどこが、それほど、偉いのか。
特集を読んで、なんとなく分かるのは、批評家としての偉さというより、自ら「アドミニストレーションの仕事を押し付けられてきた」と言う、その業界の隠然たるアドミニストレーターとしての役割だ。ヴァン・ウォルフレンが指摘した、日本の秩序の守り手としての非権力者的な権力者。スポットを浴びる武満徹や小沢征爾の背後で、官僚的目配り手配りで日本のクラシック界の秩序とイメージを保守しつづけた、その力の大きさではなかったか。
そうした役割を否定的に評したいわけではない。その存在の意味を、雑誌として音楽社会学的(そんな学問がたしかあったろう)に読者に示してほしかった。
どこかで聴いたクラシック ピアノ・ベスト101
曲名は知らないけれど、どこかで聞いた、知っている!…という曲が満載。
クラシックには、まったくの素人です。
ピアノを習っている子供に、少しでも多くの曲に触れてほしくて買いました。
結果、子供も楽しんで聞き、私もリラックスタイムに流して聞けるCDでした。
”通”の方からすると、いろいろと不満点もあるのでしょうが
クラシックを少しでも身近に、と考える初心者の方ならば
小理屈抜きに、大変楽しめるCDです。
曲しか知らなかったけれど、作者やタイトルも、あらためて知る事が出来、勉強にもなります。
まずは慣れ親しみ、そしてその後に、次へのステップアップをすれば良いでしょう。
ちょっと退屈、難しい…と思われがちなクラシックの世界の裾野を広げるという意味でも
入りやすく、とても良いCDだと思います。
決定盤!!クラシック・スーパー・ベスト101
年齢が40才代になり、なぜか無性にクラシックが聞きたくなり、色々なクラシックのベスト盤を聞きましたが、このアルバムが1番、初心者には聞きやすかったです。コマーシャルやドラマなど、本当に“どこかで聞いたクラシック”の目白押しです。
バッハ:平均律クラヴィーア曲集全曲
晩年のシフによる再録音。シフはヘンレ原典版の運指も書いた。初期のシフは、単音の音楽を軽快に情緒豊かに演奏するタイプだった。そのため、スカルラッティ、モーツアルト、ハイドン等の曲は非常に特徴的な演奏ができた。この頃は、和音の作り方はあまりうまくなかったように思う。しかし、ベートーヴェンの重層和音を扱う音楽に取り組み始めた頃から、和音の演奏方法の研究を行い、タッチ(音色)が変化し出し、そのタッチでもって各種のバッハの再録音をも行った。今回の録音も情緒感が薄れ、重厚感が増した演奏になっている。平均律の録音に限って言えば、前回の録音は、ペダルをふんだんに使い、主旋律以外は淡くぼかすような演奏だったが、今回の録音は、ノンペダルを徹底している。そのため、和音のフレージングの切断が各所に見られる。また、一部曲中でテンポが一定していないところがある。全体的な曲の構想についても、前回の録音とは全て異なっている。音質や指の置き方については、指を横からなでるような演奏ではなく、指を鍵盤の真上からまっすぐに落としたような演奏になっており、音質は、張りと深みのある音質となっている。この音質はこれはこれでいける。しかし、全体にはダイナミックに欠け、規律正しく強弱の変化に乏しいこじんまりとした感じの演奏にとどまっている。後は、各聴衆の感想に委ねたい。
バッハ, J. S.: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV 846-869/ヘンレ社原典版(2007年改訂版/A. シフによる運指付き)
2007年の校訂で、バッハ弾きとして有名なピアニスト、アンドラーシュ・シフによる運指が付されています。
市田版 ほど凝った運指ではありませんが、よい運指のようです。
譜面については、細かく比べたわけではありませんが、例えば第2番前奏曲の終音には、旧版ではモルデントが付されていましたが、この版ではベーレンライター版にならい、外されています。
(市田版にある、各原典版対照表は、ヘンレ版については旧版との対照、ということになります)
解説はシフ自身によるものですが、他のヘンレ版と同様、英独仏語で同じ内容でわずかにあるだけです。
これを使うとしたら、他に解説の豊富な版か、解説書があった方がよいでしょう。
店によってはまだ、旧版をそのまま並べているところがあるので、間違えないよう、気をつける必要があります。
譜面の最初のページ(この本だと前奏曲1番)の下にマルC2007とあるのが新版です。
洋書コーナーにあるこれ も内容は同じなので、安く買えます。こちらも2007年版です。