津波と原発
評者はその著作のほとんど全てを読んできたほどの佐野眞一作品のファンなのだが、氏が発表する「事件ルポ」作品は評価していない。評伝作品では魅力となる「磁場」という言葉に象徴される著者の思い込みみたいなものが、冷静さが求められるはずのルポ作品においても前面に出てくるからだ。
暴言になるが、著者の事件ルポは読むに耐えない。
また、著者の作品の魅力は速報性にはなく、じっくりと時間を掛けた取材と膨大な資料の読み込みにあると思っている。
なので、あまり期待しないで本書を手に取ったのだが、実際、三陸を訪れたのは3日間。福島を訪れたのもほんの僅か。体調が悪いことや、取材の制約、執筆時間の制約はあったにせよ、やはりやっつけ仕事的な感じは否めなかった。相変わらず「磁場」は何度も登場するし・・・。
しかし、昭和の高度経済成長を自らのテーマとし、評伝やルポに数多くの大作をものしてきた佐野眞一の膨大な知識と経験、人脈がなければ書くことができないという点においては貴重な一冊。
また、本書冒頭にも書かれ、過去の作品でもしばしば書かれていたことだが、
「ディティールを丹念に積み上げて“小文字”で語るノンフィクション」
という著者のこだわりが発揮された作品だとも思う。
本書でその“小文字”を構成したのが、元新宿の名物オカマだったり、共産党元幹部の「津波博士」だったりするのだが、この、ある種露悪的な人選も実に佐野眞一らしいところだ。筋金入りの共産党員であり幹部でもあった80歳を超える「津波博士」の発したある言葉が非常に印象に残った。彼にそういわせる程、津波が凄まじかったということなのだが、本当に印象に残った。これこそ“小文字”で語るノンフィクションだと思った。
とはいえ、このある種露悪的な面も行き過ぎてしまうところもある。
他にも触れている方がいたが、本書に収められている対談で著者が、原発労働者の「誇り」を語ったときに原発労働者を売春婦と例えるのは、いくらなんでもどうなんだろう。どちらにも失礼ではないか。
キネマ旬報 2008年 7/15号 [雑誌]
日航機事故を追う新聞記者の話だということで最初は見るのがつらくならないかと思いましたが、
男らしい堤真一さんの演技に引き込まれていきました。
仕事をがんばっている男の人にお勧めしたい作品です。
同じような心境を経験された方もあるのでは…と思いました。
プリンセス トヨトミ Blu-rayスタンダード・エディション [Blu-ray]
フジテレビ製作でテレビ出身の監督さんと聞きますので、これで正解なんだと言われればそうなんでしょうが・・・。いくらスケールが大きくても完全にテレビサイズの内容でしたね。くどいくらいわかりやすすぎる!そりゃ私もDVDで家で映画を初見することが増えましたが(映画館にマナーの悪い客が増えすぎたせいですが、それは関係ないのでおいといて)それでも映画は暗闇の中で必死にじっくり見るというのが基本的だと思ってます。だから家族と喋ったり、用事をしながらでも内容についていけるテレビドラマとは別物なんだと思いますが、偏見もあるかも知れませんがどうもテレビ会社制作の映画ってそうゆうスタンスで作られているようなものが多いような気がします。この映画については、題材や演出のセンスやスケールの大きさが良かっただけにかえって私には歯がゆい気がしました。テーマが父と息子の親子愛というのは良くわかりますが、例えばそれは堤真一の回想シーンが中盤にワンカットすっと入ったあれだけで十分ラストまでいきてくるでしょう。真剣に映画を見てると、そういうのが最後の感動に効いてくるんですよねぇ。それが何度も何度も同じ回想をくりかえして、最後には台詞でまでベタに説明をしている。折角センスのいい中盤のワンカットが台無しです。別に客のレベルをバカにしているのではないのでしょうけど、集中力のない観客でも誰にでも最後までわかりやすくということなんでしょうか?他にも伏線の張り方も、岡田将生が打合せ室から遅れて出てくるシーンとかそこまで露骨に張っておかないと後で誰も伏線の存在に気づかないとでも?やっぱりバカにされているのかなぁ。わざわざ冒頭に大阪からっぽシーンを入れて時系列をずらすのも、これは人間消失サスペンスでもないんだからどうなんだろう?と思いました。それでもまぁ実は楽しく見ましたけどね。だって私大阪出身で父は他界しております。
「ALWAYS 三丁目の夕日 ’64」ナビゲートDVD 『帰ってきた、夕日町のひとびと』
なんとも懐かしかった。頷きながら画面から眼を離せなかった。
小道具がよく厳選されていた。そうそう、と思い出に浸ることが
出来た。少年時代を共有した団塊世代が多くの観客となっていた。
震災と戦後復興が結びついて言われる昨今、映画はどこかでそ
れを意識していた。前作ほど涙はでなかった、むしろ、ほんのり
とした温かい気持ちにさせる。ぜひ、観たほうがいい。
ALWAYS 続・三丁目の夕日[DVD通常版]
やはり続編モノというのは、一作目を超えることができないものなのか。
確かにこの映画はイイ!何度でも観れる!
一作目を知ってる人なら、笑わずにはいられない演出もある。かなり作り込まれている。
ただ、好きだからこそ、「なんでこうなの?!」という場面がいくつかあったので、
少しぼやかせていただきたい。
まず、淳之介の父親が再び息子を引き取りに茶川商店を訪れるシーン。
茶川は、金で解決しようとする父親に対して「馬鹿にするな!」と激高する。
そこで彼は、「金じゃないんだよ、世の中にはもっと大事なものがあるんだよ」と言ってしまう。
このセリフは、あまりに直接的過ぎやしないか。
それは、映画全体を通して隠れたメッセージとして伝えるべき事であって、野暮だと思う。
おそらく、後半部において、引き取りを諦めた父親が「金より大事な物か…」と自省する場面があるから、
その布石として必要なのであろうが、どうにも引っかかって仕方なかった。
続いて、戦友の牛島が実は戦死していて、戦友会での記憶が幻だったとスズキオートが気付くシーン。
かなり長い尺(10秒くらい?)を使って伝えようとしているが、そこまで鑑賞者はバカではない。
スズキのうなずきがわざとらしくて気持ち悪かった。
象徴として途中でホタルまで出しているのだから、ハッとしたスズキの表情までで止めて欲しかった。
あとは、羽田空港と日本橋のCGシーン。
本作の一つの見所として、あの時代の羽田と日本橋がCGで甦るというのがあった。
しかし、この二つの場面はあまりに不自然だ。
CGの技術は確かにスゴい!それは疑いの余地がないのだけれど、
それを見せたいがばかりに、せっかくの良い話を曲げてしまっている。
多忙だからといってわざわざ茶川を空港まで呼び出すのは変だし、
たまたま歩いていた日本橋で昔の恋人にバッタリ会うなんて、そこのシーンでは必要ない。
しかも、小学生の子供にその人が誰なのかいちいち説明する親がどこにいるだろうか。
何気なく昔の懐かしい姿を再現するから興を誘うのであって、
野暮な映像アピールに興ざめしてしまった。
滲みったれた文句はこれくらいにして、好きな所をいくつか。
思うのは、やはり堤真一がこの映画の一番の功労者だということ。彼の演技はスゴすぎる!
芥川賞の社内委員を連れてきて茶川を説得する長い場面と(何と3分近くのノーカット)、
淳之介の父親に対して怒れる友を演じる場面(「もともと無理〜」から)が素晴らしい。
堤真一はこのシリーズで、役者としての新境地を切り拓いたと思う。
そう。なんだかんだ言って、私はこの映画が大好きなのだ。
近々、また続編がリリース予定だという。
楽しみで仕方がない。