怪談新耳袋殴り込み!劇場版<関東編> [DVD]
監督が豊島圭介から交代したと聞いて些か不安だったが、全体的には編集・内容共に今までのシリーズから大幅にずれたことはやっていない。それどころか、今まで半ば意図的に造られていたであろうグダグダ感が若干薄まり、割合構成がかっちりしていて、本編の見やすさでいえば豊島版よりも良いとさえ思える。
ギンティ小林は相変わらず絶好調だし、市川力夫君も今作では復活を果たし、他の人たちもバランス良く活躍している。
収録されている心霊現象はなかなかのもの。特に地下トイレの声は背筋が寒くなった。但し、過去シリーズの「八甲田山」「山の牧場」「Iトンネル」のような大ネタがやや不発気味で、知りすぼみ感は若干感じられる。
今回の「挑発」は豊島圭介の発案とはまた微妙に違った方向性が感じられ、新鮮さがある。裏で遊んでいる人たちの様子もかなり少なくなり、ある意味一作目に近い、現場に寄り添った作品になっていると思う(もちろん思い切りふざけているのだけど)。
とはいえ、どこかを立てればどこかが立たなくなるのがシリーズ物の常。4作目にして、豊島圭介が作り上げてきた「殴り込み」らしさのおふざけ感と、村上賢司監督の作りが、やはり違ってしまうのがどうしても気になる。豊島版は「手の込んだ肝試し」であり、それが視聴者との近さになっていた。村上版はどこか「作品」然としており、「ロケ」としてのカラーが強い。
豊島圭介は言ってしまえば「中学生」なのだが、村上賢司は「大学生」ぐらいの開きがあり、どうしてもまとめる方向に行ってしまいがちで、それが良い方向に働いてもいるのだが。
そして、こればっかりはしょうがないことなのだが、村上賢司は少なくとも出演者としては正直あまり良い機能を果たしていない。
間違いなく出演者としては豊島圭介の方が優秀で、さらに既に「出来上がった」ものがあるだけに、やはり豊島版が見たい、というのが一視聴者としては正直な所。三年やってきたシリーズの途中交代という厳しい状態の中で、村上監督はベストの仕事をしているのだが…。豊島圭介に戻ってきてほしいと思うファンの気持ちはいたしかたない。
「怖さ」「構成」を造り込めば「学生の悪ふざけ感」「肝試しムード」が減ってしまう。この悩ましいバランス。シリーズを重ねてきたからこそ、すべての人を満足させるのはどんどん難しくなる。前作だって、「それはさすがに心霊関係ないんじゃない?」という挑発があった。
だからこそ、毎年この出演者達にバカをやってほしい。悪ふざけ上等。マンネリ上等。何年だってこの馬鹿げた宴を、夏がくるたびに繰り広げてほしい。
他の心霊ドキュメンタリーシリーズには絶対に出せない魅力がこの作品には間違いなくある。
ちなみに、毎年楽しみにしているコメンタリーは、今回はちょっと人数が多すぎてよくない。トーク自体は盛り上がっていて楽しい瞬間も多いし、バランスよく裏話が出来る瞬間もあるのだが、全体的に悪のりが強くてとっちらかっている印象。まぁ今回は劇場版というお祭り感もあるので構わないが、来年以降は元の「ギンティ×チャントヨ」コンビのコメンタリー復活を願う。
新耳袋―現代百物語〈第8夜〉 (角川文庫)
待ってました、新耳袋!前巻、第七夜のようなダジャレタイトルは止めたらしい。面白いけど、怖くはないからなあ、ダジャレ。
妖怪譚としか思えない不思議な話から、ゾッとする心霊譚まで幅広いジャンルの怖い話が収録されているのがこのシリーズの魅力だろう。今回、赤、黄、青とそれぞれ色の異なったレインコートが出てくる話があった。各話につながりは無いものの、三色のレインコートというと何か都市伝説にでもなりそう。三色の中では、わけわかんなさでは最強の「黄色いレインコート」が怖かったです。他にも異界へ誘ってくれるお話満載で、とても楽しめました。続刊も期待大!
新耳袋―現代百物語〈第1夜〉 (角川文庫)
このての怪奇実話もので怖い作品や読ませる作品をろくに読んだためしがないが、この本はかなり良い。
作者や、あるいは京極夏彦もあちこちで語っているように、不思議体験を何らかの因果関係と結びつけず、そのまま提示して置き去りにする姿勢がなによりもふか読みを誘うのである。
新耳袋―現代百物語〈第9夜〉 (角川文庫)
シリーズ全10巻でも、出来の良い一巻。大フィルの朝○奈さんの話が特にグッと来る。原則人も場所も匿名性を確保し、すぐ隣に在りそうな恐怖を味あわせてくれる本シリーズだが、この話は、容易に特定でき、特定できる人には一層深い感動(タイプミスではない「感動」するのだ)を味わえる。この話と近隣から愛された老婆の話は、泣ける。怪談・しかも2,3ページのボリュームの連続でありながら、時に涙できる。新耳袋のシリーズが類書と一線を画す要素の一つであろう。