わが心の愛唱歌~抒情歌名曲集
最近、「里の秋」「みかんの花咲く丘」などの抒情歌を愛聴し、色々な歌手で聞いていたところ、この全集とめぐり合った。2日間で6枚のCDを聞いたが、卓越した歌唱力と清涼感溢れる歌声で安心して聞けた。歌って欲しいと思う歌が殆ど含まれ、初めて耳にする魅力ある曲もあった。タイトルに愛唱歌とあり、6枚のCDの1枚1枚には情感を表す漢字一字の表題が添えられている。各CDは唱歌、童謡、歌謡曲、フォークと様々のジャンルの曲が混在しているが、ジャンルに関係なく情感豊かに歌われている。ジャンル別に分ける事もできたと思われるが、歌の持つ情感の共通性によって分けられたようである。個人で楽しむ範囲でジャンル別に編集するのも面白いだろう。幅広いジャンルの曲を歌いこなす歌唱力は稀少で、後世に残る名曲が理想的に歌われた全集である。どの曲も素晴らしいが、ミディアムないしミディアムスローテムポの曲で彼女の歌唱が最も伸びやかに感じられる。「七里ガ浜の哀歌」は深い共感の思いが込められた名唱である。「宵待草」は相当のスローテンポのため間延びし歌唱としては無理がある。私の郷里は岡山県邑久郡で夢二の生家にも近く、「宵待草」には馴染みが深いが、音域が広いこの曲をこのスローテンポでは彼女も少し苦しそうである。フォーク系はオリジナルと比較してしまうが、見事に消化されていて持ち歌と言って良い歌唱である。さらに「灯台守」「琵琶湖就航の歌」「思い出の渚」「あなたのすべてを」などを聞きたい気がする。解説書には歌の誕生にまつわる秘話が興味深く書かれている。名曲は、切羽つまった状況で短時間に生まれることも多いようだ。聴き終えて振り返れば、それぞれの情感に基づいて分けられた色々なジャンルの歌がオールマイティな歌唱によって違和感なくまとめられていることがわかる。愛唱歌というテーマで彼女のリサイタルを6回連続して聞いたような気になる全集である。