三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)
この作品を読むことができるのは、日本人の一つの幸せだと思います。
極めて特異な作品であり、誰にでも勧められるものではありませんが、これは、ある意味で、歴史に残る名作だと思います。
ある男が黒鳥館に招かれて小説を読んでいるという設定で、全八章の私家版「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」に、二章ごとに「幕間」の章が挿入され、最後に全体の謎解きがある構成になっており、「四神金赤館銀青館不可能殺人」を手本に「紙の碑に泪を」の変奏を試みたような塩梅です。
その数において、ギネス級の伏線が張り巡らされ、しかも、推理を組み立てるまでもなく、そのまま「答え」が示されているにもかかわらず、ほとんどの読者には、解決編までその意味が判らないでしょう。
伏線となる事柄を読者に印象づけながら、その意味に気づかせないことは、本格ミステリの骨法の一つです。しかし、着想のあまりの馬鹿馬鹿しさゆえに、読者に伏線の意味が判らないという作品は、多くないと思います。
信じられないほどの労力を費やして、こんなとんでもない作品をちゃんと完成させた作者には、心底、感服しました。
怖い俳句 (幻冬舎新書)
『怖い俳句』という書名だけで「けっ!」と思う人もいるかも知れないが、本書は決してエキセントリックなキワモノではない。ここに集められた俳句は実際ある種の俳句であるが、「ですます」調で専門用語を極力用いず平明に語る著者の語り口は、いたずらに怖がらせるためのバイアスの決してかかっていない、個々の俳句が持っている本来の味わいを引き出す深い確かな読みである。踏み込んだ記事では、技術的な効果や音読したときの効果までもが、分かりやすい言葉で記されている。
そして芭蕉から種田スガルまで、紹介される俳句のワイドレンジなこと。
「芭蕉から子規まで」8人。
「虚子からホトトギス系、人間探求派まで」12人。
「戦前新興俳句系」17人。
「実存観念系とその周辺(伝統俳句、文人俳句を含む)」26人。
「戦後前衛俳句系」14人。
「女流俳句」22人。
「自由律と現代川柳」13人。
「昭和生まれの俳人(戦前)」41人。
「昭和生まれの俳人(戦後)」48人。
まったくよくぞ、これらの幅広い著作から「怖い俳句」を拾い出したものである。ぜんぜん知らない俳人も多々だが、私にも分かる範囲では時代背景や俳人紹介も簡潔にして適切である。それぞれの俳人について記事は興により伸び縮みするらしく、半ページのものもあれば、阿部青鞋など5ページにも及んでいる。
このアンソロジーから俳句に入る人はきっと幸せである。