Tono-Bungay (Penguin Classics)
語り手であるジョージ(ウェルズと同じ名前)の半生記である。貧しく息苦しい幼少時代、叔父のエドワードを手伝い、インチキ強壮剤『トーノ・バンゲイ』で大儲け、成功によって垣間見た階級間の違いへの戸惑い、恋愛結婚と新しい恋人と離婚騒動、飛行機への熱中、破産に至るまでの一連のドタバタ悲喜劇、等々、様々な浮世の出来事が豊かな筆致で綴られてゆく。ウェルズの文芸的作品の中でも脂の乗った傑作で、例によってウェルズ自身の分身とも言うべき登場人物達の様々な表情を鏤め乍ら、新たな社会形態、新たな人間関係、新たな技術・発明がどんどん世の中を変えて行ったエドワード朝時代の移り変わりが、一個人の体験と云う形で、実に生き生きと活写されている。時代を代表する示準化石的名作と言うべきであろう。
この新しいペンギン版は、従来の決定版とされるアトランティック版のテキストを使用しており、16頁分の解説、25頁分の註の他、著者略歴、文献案内、テキスト註解が付いていてお薦めである。
コーラル3 手のひらの海 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
母親が家出し、優しいが血の繋がりの無いらしい家庭で育つ少女・珊瑚と
彼女が創り出した幻想の海に住む明るく活発な人魚・コーラルの物語。
コーラルは珊瑚の分身で、理想で、憧れで、現実から抜け出すための空想。
珊瑚の周囲に好ましからぬ変化が起こると、コーラルの海も大きく波立つ…
今巻は、今迄に張られていた様々な伏線の答えが、少しずつ描かれます。
どうして女王は、人魚たちに美男林への無用の立ち入りを禁じていたのか。
なぜ人魚の兵隊ボイルが、持つはずのない人魚への憤りを感じるようになったのか。
人間の死体を携え、危険なエイコの群生地を越えて、彼はどこに向かっていたのか。
どれも胸が痛くなるようなエピソードです。
愛=人を変える危険…というのは、珊瑚が母の行動に持つ反感なのでしょうか。
しかし今巻で、その母の痛ましい半生も語られます。 誰かを単純な悪者にしない作者。
今までその単純な悪役代表だった、被害妄想のウィーニィーにすら優しさが垣間見えます。
明るい兆しが現れるのも束の間、美しい人魚の谷に恐ろしい闇が忍び寄って来て…
『人間の子供達の亡骸が漂う中で ボイルは必死で 自分の気持ちを捜していました』
『大切なものができると 喜びと手をたずさえて 同じ大きさの不安がやってくる』
『失うものはない だけど もう動けなくなって消えてゆくその後も 一人は嫌なんだよ』
『太陽が沈んで 星にも波にも 何も刻む事はできなくても 人魚だけは彼の歌を』
TONOさんのストーリーテラーとしての力と、言葉選びの繊細な美しさ。
ファンタジックな海の生き物たちを生み出す想像力にも驚きます(e.g.オウム魚)。
あとがきに登場する「毒ありまくりネコクラゲ」が可愛すぎ。 次巻が待ち遠しいです!
An Autumn Afternoon [VHS] [Import]
小津監督は繰り返し父と婚期を迎えた娘の物語の映画を作ったが、本作はその最終変奏となった作品。笠智衆が父役で、佐田啓二、中村伸朗、北竜二、等のなじみの芸達者な演技陣で固め、娘役に岩下志麻を起用。家の中を歩き回る姿は原節子を彷彿とさせるが、瑞々しい彼女の個性は輝いており、決して「晩春」の再現ではない。
娘の婚期を逃してしまった、笠の恩師役の東野英二郎とその娘役の杉村春子の演技が特筆もの。幸福になりそこねた父娘の悲哀が滲み出ている。
そしてまだ残る戦争の陰。バーで加東大介が軍艦マーチに合わせて敬礼しながら体を揺すり、笠とマダム役の岸田今日子(初々しい!)がつられて笑みを浮かべながら敬礼の仕草をするシーンはグッとくる。
このエディションは色がきれいで、「若松」の座敷の卓の上に並ぶ食器の色の組み合わせや岩下志麻の婚礼衣装とそれが映える頬の色に監督の色彩感覚の素晴らしさが窺える。
静物のカットを挿入するお約束は本作でも守られ、庶民の風俗を描くことも忘れていない。本作では特にゴルフ。私の父母もゴルフのことで喧嘩していたことを懐かしく思い出す。
カルバニア物語 14 (キャラコミックス)
思惑が複雑すぎて、いまいち楽しみきれませんでした。
まだ14巻内で決着がついていれば、良かったと思うのですが。
「え、つまりどういうことなの??」という状態で、
次巻持ち越し→個人的にはやや消化不良気味です。
読解力とか、想像力の問題かもしれませんが・・・
つづきが出たら、あらためて14,15と続けて読みたいと思います。
アナベルの『人の気をひく方法』のお話は好きでした。
タニアと仲良くなってくれるとうれしい。
The Legends of Tono
読みやすい英語で、遠野物語のお話の翻訳文の前に、翻訳にあたっての苦労やいきさつなど、丁寧な説明や注釈がなされています。なぜ、遠野物語を Tale of Tono とかTales of Tono にしなかったのか? The Legends of Tono にした理由など、英語を学習したり、翻訳をする人なら、その苦労が共有でき、とても興味深かったです。
柳田國男の原書を読んだことのあるないに拘らず、英語学習者にはおススメの一冊。あるいは日本を紹介する本を探している人に、おススメしたい良書だと思います。