九月姫とウグイス (岩波の子どもの本)
王の行動に規範やモラル、娘の人格を尊重するなどの「誠意」が全く感じられない。読んでいてこんな奴がいるのか?と思ってしまうが、王とは本来そういうものなのだろう。所詮自分のような常人には理解できない世界の人間だ。タイトルは王が全て悪い・・・と書いたが、王の行動ゆえに心の美しい末王女が引き立つ訳だ。
それにしても絵もなかなか良いし、子どもに読んで聞かせている最中に不安になるが、異文化との接触と言う意味からもなかなか良い絵本。
モーム短篇選〈上〉 (岩波文庫)
最近の岩波文庫は、昔々に出版したものを重版するのではなく、外国小説は新訳で、日本の小説は版を変えたりして出しなおしているけど、モームもその対象みたいでこの短篇選以外も出ていて、これらがまたかなり面白い。
この短篇選は、訳者が「誰にでも楽しめるもの」という基準で選んだ18篇が収録されていて、上巻には以下のものが収録されている。
【エドワード・バーナードの転落】『月と六ペンス』にも通じる短篇
【手紙】これも南洋が舞台。ミステリーでもいける作品
【環境の力】環境が違ったら、違った人生を歩んでいたののではないか、と思われる二人の話
【九月姫】モーム曰く「自分の愛する人の幸福を自分の幸福より優先させるのは、誰にとっても難しい」
【ジェーン】異色な人物への興味と社交界への批判
【十二人目の妻】結婚詐欺師のお話
いずれもモームの人間不可知論、「人間は相互に矛盾する要素をたっぷり持つ複雑な存在であり、首尾一貫した人などいないのだ」ということをよくあらわしている作品群である。
食前絶後!! (富士見ファンタジア文庫)
どこがどう、というのを説明するのは難しいのですが、作者ろくごまるにの作品は普通のライトノベルとはちょっと一線を画した独特な妙な味があります。代表作『封仙娘娘追宝録』しかり、そしてデビュー作である本書『食前絶後!!』でございます。
受賞作、ではなく、受賞作を元にして全面的に書き直した作品らしいです。
まずなんといっても本書の特色は調味魔導の斬新な設定にあります。
そして味についての描写、弁当の肉ソボロの味が「さっぱりとしたアスファルト味」って……アスファルトを食べたことのある人でなければ想像できないかもしれませんが、不味いソボロって文章で表現するならば本当にそんな味ですからね。なんとなく納得してしまいます。
それと、数学部の存在がいい味出していました。
調味魔導の原理を説明する部分を含めて、文章がやや角張った理屈っぽい調子なのが気になる面でもあります。そりゃ説明だから理屈が通じなければ読者は納得させられませんけどね。その文章がこの作者の特色でもあるのですが。