テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
ああ、みんな優しいな…なんていい人たちなんだろう。
湯船からまさに湧いて出た(笑)ルシウスを別段不審がりもせず(※ギリギリ不審がらずに
済む状況に設定されている)、あれやこれやと世話を焼いてくれる。冷たい飲み物をくれたり、
おいしい物を食べさせてくれたり、身体の具合を気遣ってくれたり…。
そういった事がほぼ全てルシウスにより吸収され、古代ローマで再現される。
ルシウスの名は上がり、次の依頼をどう実現させようか考えるうちにまた平たい顔族の国へワープし、
ジイチャンバアチャンたちに遭遇し、良い思いつきを得て元の世界に戻り…この繰り返しによって
もたらされるルシウスの成功の鍵を握っている彼らの存在はなかなか侮れない。
ルシウスの出逢う、顔が平たいながらも年季の入った彼・彼女らの姿には、今はもう失われた
古き良き日本人を見ているような気になる。そしてその素朴な優しさに心和むのだ。
よくあるワープ物で、ルシウスはその都度日本の風呂を模して安易に成功を手に入れる、このストーリーの
ドコがそんなにいいんだという意見も解るけれど、そういった本筋から少し離れ、
ジイチャンバアチャンたちにも注目してみてはいかがだろうか。打算のない親切にきっと心温まるだろう。
タイトルとは少し外れるが、本作は何もルシウスの安易な成功に重点をおいている訳じゃないと思う。
外から眺めたら日本の風呂文化はどう見えるのか、それを表現するための設定なのだろうから。
時代じゃなく、単に国が違っているだけでも良かったのかもしれないが、やはり浴場文化の盛んだった
古代ローマがもう一つの舞台として一番似つかわしい気がする。ちょっと比較文化論みたい。
本書では普段大して意識していなかった日本人の風呂へのこだわりに改めて気づかされた。
ルシウスじゃないけど、恐るべし平たい顔族!(笑)
黒いスイス (新潮新書)
昔 スイスをドライブして車が故障した時助けてくれるどころか、邪魔者扱いされたことがあり、「なんて根性の悪い連中が多いんだ。フランスやドイツなんかじゃちゃんと助けてくれるのに」と思ったことがありました。こんなこともあり、うっすらと一般に描かれているスイスのイメージとは違うと前から思っていましたが、この本はそれらの点を明確に指摘して、スイスのしたたかに生き延びる様を表現していました。ユダヤ人に対する「悪魔のJスタンプ」の話などは列強の中で生きていく術の典型的な話でありますが、初めて知って強烈でした。