弧の増殖 夜刀浦鬼譚
奇譚ではなく鬼譚。
最初の方の段階でクトゥルー神話を知っている人には、何が起きているかおぼろげながら見当がつく様になっている辺りは心憎い構成。都市伝説を効果的に利用している辺りは、超自然に関して常に流行を意識して取り込んでいたラヴクラフトのやり方にも似ている。
英訳もされた「クン・ヤンの女王」で言及されている著者の創造したヨス=トラゴンの名がここでも登場し、しかもユゴスで崇拝され夜刀浦の神でもあるらしい。更にヨス=トラゴンに仕える存在らしい電磁波生命体のイルエヰックの名前も登場。しかし只でさえ発音し辛い名前が余計に発音しにくい名前に・・・父が若い頃、一度だけ聞いた事があるそうだが、”ヰ”の音なんて発音出来る人、滅多に居ないだろう。
「恐怖まだ終わらず」のラストも美事。
それにしてもヒロインがおそらく「深き者」の血を引いているのだろうが、結局、彼女が変貌するまでは描かれなかった。それとも続編か夜刀浦を舞台にした別作品で、描かれるのだろうか。
蒐集家(コレクター)―異形コレクション (光文社文庫)
中島らもが亡くなる3日前にFAXで原稿を送ったといういわく付きの作品「DECO-CHIN」も収録されている。グロテスクな内容が突然の死を思い出させ、「蒐集」をテーマに集められた短編集として異彩を放っている。どの話しもぞっとするものばかりで、夏の一夜に丁度よい、読み応えのある短編集だ。
クトゥルー神話全書 (キイ・ライブラリー)
リン・カーターに依るクトゥルー神話研究の古典。冒頭に著者に依る新世代作家への献辞があるが、最初の二人ラムジー・キャンベルとブライアン・ラムレイが今や長老格の作家である事を考えると隔世の感がある。
クトゥルー神話作品の基準を何とか定めようとする著者の苦労が読んでいてよく判る・・・だが、無理せず何でもアリで良いのでは・・・と想うのだが。
本書は、ダーレスの死後に書かれたのだと想っていたが、執筆中、ダーレスに見て貰っていたとは知らなかった。もっとも途中でダーレスが亡くなってしまったのだそうだが・・・
兎に角、クトゥルー神話がせ神話大系として成立していく過程についての解説書として充分に読み応えがある。