茄子 アンダルシアの夏 [DVD]
この作品の魅力は何のといっても自転車のレースシーン。最高の迫力を出している。しかし、それに劣らないのがこの作品のドラマ性。特に説明的になっておらずシーンを見せるだけで語るところは贅肉を削ぎ落とした演出が活きている。
主人公ペペとその兄と婚約者のカルメンの関係を手短に表現し、ペペの想いを後半に観る者にしっかり伝わってくれるところが良い。原作を知っている人は、原作との比較感で兄とカルメンとの関係の描写に対し不満があるかもしれないが、他の実写ドラマと比較すると凝縮された人間ドラマが十分伝わってくる(下手な俳優で描いた映画より十分納得できる演出になっている)。
そして、兄のペペに対する期待は素晴らしくかっこいい。何と言ってもペペのレースを車で追う決断をする時に発する「今なら勝てば表彰式に間に合う。負けるならそんなTVは観ない」という言葉はペペを信じる兄の思いが瞬時に伝わる。
また、大泉洋の声は最高。主人公ペペになりきった声は観る者に違和感を全く与えず、ペペそのものになっているところが素晴らしい(本当に上手い思う)。
そして、タイトルの「茄子」もムチャクチャ美味しそうなのが良い。スペインの広大な大地と人間ドラマと茄子が三拍子揃って見事に融合したドラマに仕上がっていると思う。
アルベニス:イベリア 全曲
夜更けにFMから流れてきたこの演奏に、一瞬で心を奪われてしまった。当時もクラシックは聴いていたが、特にピアノ楽曲に興味が強かったわけでもなく、アルベニスという作曲家の名前さえよく知らなかったのだが、この演奏はピアノという楽器の魅力を存分に味合せてくれたという意味で、私にとって忘れられないものだ。
アリシア・デ・ラローチャというピアニストもこのディスクで初めて知ったのだったが、その音色の美しさといい、凛としたフレージングといい、何か突き抜けたような音楽を感じて心が震えた。私にとっては、ピアニストの「基準」とも言える演奏家の一人だ。
いい音楽(家)には、いい佇まいがあると思うが、ラローチャはそういう意味でも筆頭だ。このディスク以外のイベリアの演奏をさほど多くは聴いていないが、これ以上の演奏はないのではないかと思わせる。一生ものの愛聴盤だ。
アンダルシアの犬 [VHS]
『黄金時代』(1930)で有名なスペインのルイス=ブニュエル監督の作品。シュールレアリズムの代表的映画で、何よりも「映画が暴力であること」を証明した作品。正直いって夢にまで見るので、気の弱い人はお勧めできない作品だ。
死神の谷 [DVD]
今から八十年以上前の作品(もちろん、サイレント!)ながら、見始めたら一気に最後まで惹き付けられる名作! 素晴らしいセット、美しい映像も見事であるが(修復が良いのか、プリントが良いのか、かなり見やすいのが嬉しい!)、ラングの演出が圧倒的! 始まりからすぐに、ルイス・ブニュエルが一目見て「死神」だと解った、と語っている「死神」が、不気味な雰囲気を漂わせる。そして人間の運命を象徴する蝋燭。暗がりに浮かぶ不吉なシルエット、刻一刻迫ってくる時間を畳み掛けるように示す時計のショット。全編を覆う神話的な、中世の教訓劇を思わせる独特のイメージ! そしてスピード感のある展開。途中、バクダット、ベネチア、中国と舞台が変わり、エキゾチックな娯楽性も盛り込み、ラングの持っている資質を集大成した感すらあるもの。後の、ベルイマンの名作「第七の封印」と較べてみても、本作の印象の強烈さは全く遜色ない。文字通りラングの最高傑作と言っても誇張とは言えないほどの、必見の傑作。