ハワイ・マレー沖海戦 [DVD]
農村の少年友田が、同郷の知己の海軍士官に感化されて、予科練を志願し、猛訓練を積んで、艦攻の操縦員となり、ハワイ作戦に参加するまでの物語。
同時並行的に、英戦艦プリンス・オブ・ウェールズと、巡洋艦レパルスを撃沈するマレー沖海戦が展開する。
戦時中の作品なので、軍事的情報が意図的にぼかしてあるようだ。
物語前半、場所は不明だが、友田の故郷とされる田園風景や家屋敷の様子など、今は失われた美しい日本を見ることができる。
原節子が姉役として登場する。これがまた美しい。
友田の予科練時代のシーンは、海軍の本物の施設を使ったのではないかと思うが、非常に洗練された佇まいである。昔の日本は広々していたのだ。
霞ヶ浦航空隊での、筑波山を背景にした赤とんぼ(実機)での練習風景は、飛行機好きにはたまらないだろう。
マレー沖海戦の部分では、96式陸上攻撃機の離陸や飛翔、狭い機内に搭乗員がひしめている様子が見られる。
空母の艦橋シーンは、最初は本物かと思って目を凝らしていたが、どうやらセットだろう。
ハワイ空襲の特撮に関しては、DVDに封入された資料に詳しく書いてある。
この特撮シーンは、まったく見事の一言に尽きる。
なんとなく、戦後作られた「トラトラトラ」とストーリーが似ているように思った。
故郷の家族も描かれてはいるのだが、若武者が出陣して功を立てるのを心待ちにする銃後の人々、という位置づけを強調している。
子の無事を祈る母の想いを看取しえなくもないが、戦意高揚映画だし、まだ内地では戦局が悪化している実感がない時点での映画だから(実はミッドウェー海戦で大敗したあとの公開)、悲劇性の強調や、個人的な感情によって事態を正当化するような姑息な演出はない。
日本の理想を素直に前面に押し出した本作品は、主題が明確だ。
戦前の日本人が何を信じて戦ったのか、この作品を見ることで、タイムカプセルを開けたように、感じ取ることができる。
このような新鮮さは、後知恵がついた回顧ものではなく、当時に作られた作品の持つ強みだと思う。