ロング・グッバイのあとで ―ザ・タイガースでピーと呼ばれた男―
爽やかな読後感を得ることができた。
今、新たな人生のスタート地点にたっている男だからこそ書ける自伝である。
子供時代から現在に至るまでの周囲との軋轢、誤解、こだわりを率直に語り
他人を傷つけ、自分も傷ついた日々をまるごと肯定し、感謝すらできる境地
に至った著者の人生は同じように歳を重ねた私達読者の過去を振り返るきっ
かけとなる。
時に日常の楽しみや愉快なエピソードを挿入することで重くなることを回避し
最後にザ・タイガース5人のメンバーで元マネージャーを訪ねる章はあたかも
映画のワンシーンをみるように暖かく、胸を熱くする。
元ファンの我々にとっては、またあのピーに再会できた喜びを得るなにより嬉
しい一冊であり、彼を知らない若者には、沢山の困難を乗り越えてきた団塊世
代のおじさんの人生を知り自分の親父の背中をちらっとでも見直す機会になれ
ばと思う。
続・図々しい奴 [DVD]
正続の続とあるが、むしろ前編後編の後編で前作とあわせて一巻をなす。
前作は谷啓が作家性を引っ込めて役者に徹していたが、今作では谷啓考案のギャグだと思われる箇所が随所に顔を出し
監督は谷啓の気なようにのびのびと演じさせている様子が伺えて楽しい。
時代背景は二次大戦から戦後・朝鮮戦争の特需へと移り変わるが、戦後以降が急に行き来としてくるのは
いかがわしい主人公と時代のいかがわしさがぴったりマッチしているからだろう。
「虎屋の令嬢変じて今ではパン助では活動写真並だ」映画の自虐ギャグが笑えます。
満州馬賊の三田村役が、何の事情か、西村晃から、多々良純に変わっているのが惜しい。
西村晃の方がずっとインチキ臭くて適役なのである。
破軍の星 (集英社文庫)
北条を中心とした武家社会が一旦崩壊した後、再び武家による統治か、はたまた
後醍醐帝中心の親政を護るか、国のあり方を問われた南北朝という時代、
彗星の如く現れ、散っていった麒麟児:北畠顕家の生涯を颯爽と綴った物語。
武家の棟梁として再度武家中心の国を作るために心血を注ぐ尊氏と
それを支える直義、重臣の斯波家長・・・。
対して、後醍醐帝の親政を護らんとする北畠顕家、親房、大塔宮、新田義重、
楠木正成・・・。
そして双方の間で揺れる伊賀盛光。
密かなる夢を抱きつつ、やがてその夢を顕家にかける安家利通。
主人公の顕家のみならず、他の登場人物にもそれぞれに抱く夢や正義があり、
ぶつかり合う様が大変魅力的です。
個人的には顕家と配下の忍:如月の関係が徐々に密になっていく様子に魅かれました。
北方歴史物の初期作品という意味でも、注目です。
眠狂四郎 ~円月殺法~ DVD-BOX
このテレビシリーズは、原作の持ち味を活かした脚本の出来のよさもあり、
今までに映像化された眠狂四郎の中では最も成功したものの一つと思われる。
片岡孝夫の演技も秀逸で、孤高の剣士の複雑な内面を美しい所作で演じており、
当たり役としてあまり知られていないのが不思議なほど素晴らしい。
また、原作とは異なり、狂四郎に関わる女性たちが
不幸ながら自我を持った芯の強い人間として描かれているのも特徴である。
(ただし、女性の裸体等について一部過激な描写あり)
片岡版一作目の本作は、薩摩藩の謀反の企てを阻止すべく京へ上る狂四郎に絡み、
東海道の各宿場で起こる事件が中心となっている。
二作目である「眠狂四郎無頼控」と併せて観るのがお勧め。
眠狂四郎勝負 [DVD]
繰り返し何度観ても飽きない名馬面の連続。83分という短い時間に、何本かの映画を凝縮したような満足感を与えてくれる。権力を笠に策略を巡らせる嫌な奴等。男はぶったぎり、女は口でぶったぎる。姫に捕らえられた狂四郎が、姫の誇りをバッサリ斬り捨てるような台詞が凄い。痛快だ。市川雷蔵の眠狂四郎シリーズ最高傑作は、この『勝負』だ!と断言したい。痛快娯楽時代劇とは、まさにこの作品をさす言葉だ。一見の価値あり。