民宿雪国
今日読み終えた。
はっきり言って最悪の後味だった(悪口という意味ではなく→そのため評価を4点にしてある)。
グロに次ぐグロ。男色やら性転換やら在日やら陵辱・殺人(しかも怒涛のごとく連射)・裏切りが無数に出現。
これはさすがに映画化は不可能だろう。
もちろん連続するこれらすべてのグロには作者の執拗な意図があるのだが、描写・設定が狙いすぎと言われかねない
領域に入っているので読者の好みで評価は大きく分かれるのも納得がいく。
単に唾棄すべき描写を書いてるだけじゃねえかと言いたくなる人の気持ちもよくわかる。
ただし最後まで作者の根性を貫き通したことで私の中での評価は高くなった。
実際にこう言う描写を目の当たりにしてみると、人間の本性とは予定調和や中途半端な妥協で終わることはなく、
人生の最後の瞬間まで一貫してこうなるものだろうと思わせられる。
それがこの作品の持った力が一番発揮された箇所なのだろう。
今夜は確実に夢に出る気がする。
これ以上はちょっと言葉が見つからない。
身構えていなかった自分には良くも悪くも刺激が強すぎたので「今年最強の問題作」に遭遇した感じ。
やはり自分にはこういう作風は向かなかった気がする。
当分こういうおぞましいのはもういいや…再読する気力も失せた俺(滝汗…)
不自由な心 (角川文庫)
5編の短編集からなる作品だが、いずれも秀作である。とりわけ、「卵の夢」とタイトルにもなっている「不自由な心」のふたつの短編は、最高傑作。前者の主人公・坂本は中小企業の中間管理職だが、かつてはナンバーワンだった営業マンも不況とともにリストラの対象となる。真面目に一生懸命働く事しか取り柄のないことが、妻も仕事を失う事になったのではと思うようになり、強い衝撃をうける。そして「人生」とは「愛」とは何かを考えるようなる・・・。読了後に久々に考えさせられる作品である。
この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下 (講談社文庫)
「白石一文氏の最高作」と紹介されている長編作。
我々が今生きているこの現代の日本に現実に存在している様々な社会問題をストーリーに散りばめながら、会社内の見苦しい牽制/駆引きの様とか家族の在り方など“個人と周囲”の交わりを軸に物語は進行して行く。偽善とか欺瞞が当り前に横行する、実は非常に醜い我々の日常をサラリと描き、その中で経済学者の言葉などを引用(紹介?)したりしながら作者の世界観が披露されている…という感じだ。
しかし軸となるストーリーと間に挟まる引用部分のバランスが「5:5」もしくは「4:6」くらいの比率になってしまった事により、全体的に“とっ散らかった”状態のまま終わりを迎えてしまい、読者の胸に深々と突き刺さるはずの作者のメッセージが無念にも途中で失速してしまっているように感じる。あまりにも伝えたい事が多すぎて、それらが同格に且つ並列して存在してしまったため、結果的にはどれが焦点なのか判別がつけにくくなってはいないか。
おそらく作者は自分の思想に沿った多くの引用文を吟味した上でこの小説を一気に書き上げたものと思うが、もう一呼吸置いて全体を俯瞰してみた方が良かったように思う。「思いの丈」を一発で披露した力作の割には仕上がりは散漫な印象で、何だかとてももったいない気がする。これが作者・白石一文の全てではなかろうが、次の小説ではどういう切り口で我々を啓蒙してくれるのか、期待と同時に興味を呼び起こす小説ではある。この小説、少し時間を置いてもう一度読み返してみたいと思う。
一瞬の光 (角川文庫)
物語を読み進めていくごとに、「大絶賛!」された意味がよくわかった。
つまりこの小説の主人公は、「俺もこんな生き方してみてぇ〜」と世の男を
唸らせてしまうような、絵に描いたようなスーパーサラリーマン。
生まれながらの秀才でハンサム。東大卒で超一流企業勤務。
社長にも気に入られて、出世街道まっしぐら。
そして交際相手は、超美人でスタイル抜群の名家のお嬢様!
そんな思わず笑ってしまうような好条件を兼ねそろえた主人公がある晩出会った
のが、トラウマに苦しむこれまた胸の大きな二十歳の女の子。
派閥抗争で深刻に悩むふりをしつつも権力を利用して気に入らない人間を
僻地に飛ばしたり、チンピラを闇討ちにする主人公。オレって強いぜ!
女豹のようなお嬢様とは肉欲に溺れ、だけど小鹿のような女の子との
プラトニックな関係も止められない!マジ悩む。だけど超スリリング!
そしてラスト。勤め先からへらぼうな口止め料をもらい、植物状態になった女の子と
「いつかふたりでジャズ喫茶でもやろうぜ。イエィ」
と青天の空を見あげて感傷に耽ってみたりして・・・・。
これってまさに・・・・・・、男にとっての究極な理想の生き方じゃん!
主人公に感情移入すればするほど、読後のカタルシスは途方もない。
男のロマンをここまでリアルに書ききった小説が「大絶賛」されないわけがない。
だけど・・・・主人公に感情移入できなかった場合は、これほどムカつく小説も他にない。
この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (講談社文庫)
貧困、経済、セックス、結婚、宗教など現代社会における様々な主題が、主人公(カワバタ・タケヒコ)の言動やその身辺で生起する様々な事件と各種文献からの引用を交えながら、持ち前の透明感溢れる文体で自在に物語られる。引用部分はそれだけを見るとやや嫌味な感を与えるが、主人公の人物設定(知的好奇心旺盛な一流週刊誌編集長)もあり、小説全体の中に無理なく溶け込んでいるように思う。また、本来なら堅くて読むのに骨が折れそうなテーマを取り扱いつつも、一気に読ませるストーリーテリングの才はやはりさすがである。
個人的には、「自由」と「平等」の持つ皮肉さ(逆説性)について大いに考えさせられる一作であった。(フリードマン流の自由は、一種の不可逆的な過程として最終的には不自由(例えば貧困)を招来する。ガン病棟ほど社会的地位や財産が無意味で人々が対等で平等な世界はないが(151頁)、逆にそこに漂う腐臭(例えば、自分ではなくまず他人の命を先に奪ってほしいと冀う心情)の凄まじいこと(169頁)、等々。)
「恋愛はギャンブルだけど結婚はビジネスなの」(141頁)。「ありのままを受容するのではなく現状に何かしらの欠陥を見ようとするのは、向上心のなせる業というよりも、自らの存在そのものへの否定、ひいては自己破壊にも繋がる厄介なコンプレックスが原因の場合が意外に多い」(195頁)。「もうこれ以上自分に何かを上積みするのではなくて、余分な荷物をどんどん捨て去って、自分の本体ともいうべき核心部分だけを持ち続けていく」(202頁)。