未完のイタリアン・アルバム
1971,79,80年 トロント、イートンズ・オーディトリアムにて録音。グールド没後15年たった1997年に発表された。1982年に亡くなったグールドの晩年期かつ未発表のバッハを多数含むアルバムとして注目すべきアルバムである。
特に『マルチェルロの主題による協奏曲ニ短調』の弾きっぷりに圧倒される。明確で強いセンテンス。右手と左手の独立性。それから構築されたコンポジションのはっきりした建築物のようなバッハだ。グールドのバッハはむしろ晩年に行くほど輝きを増しているように感じられる。
余談だがギドン・クレーメルの著書『琴線の触れ合い』には、グールドの晩年に共演を打ち合わせしたことが綴られている。1982年トロントでコンサートを開いた後、CBSはグールドとクレーメルを会わせようと尽力し、アンドラーシュ・シフとクレーメルは夜行性のグールドと真夜中近くに初対面している。話は盛り上がりグールドはまだ未発表だった新録『ゴルドベルグ変奏曲』のビデオを見せてくれたらしい!!!その後、話はリヒャルト・シュトラウスのソナタに移り(このソナタはグールドの最後の録音となった)、クレーメルの予想の倍のテンポで口ずさんだそうだ。もしかしたらリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタあたりを共演していたかも知れなかったのだ。
何しろこういう素晴らしい演奏を聴くともっともっとグールドに生きて欲しかった、と思うのは僕だけではないだろう。涙が出そうなくらい傑作な上に色々思ってしまうアルバムだ。
シンフォニア
秩序の持つ美しさについて考えるアルバム。きらめくような音に洗われて、いつしか魂は日常を離れる。
バッハやヘンデルなど曲名は知らなくてもメロディーを知っている曲も収録されているのが嬉しい。
アンド・セレニティ~瞑想するグレン・グールド
「瞑想」をテーマとし、グールド死後に発売されたコンピレーションアルバムです。
誰もが知っている曲ではないけれど、スローで聞きやすいものばかり。
達観の境地というか、ひたすら沈黙を保って佇む姿を思わせます。(ジャケ絵効果もあるかもしれませんが。)
クールで鎮静剤のように、心が落ち着きます。
メンデルスゾーンに癒され、途中スクリャービンの冷たさを挟み、終盤ブラームスでほんのり暖かくなる感じで、曲順もうまく考えられていると思います。
70分を超える収録時間で、ピアノ曲が好きならファンならずとも一聴の価値ありです。
ボーナストラックへのこだわりがなければ、安価な輸入盤でも十分だと思います。