スティット・ゴーズ・ラテン
幻のロイヤル・ルースト・レーベルに1963年に吹き込まれた日本でも人気がいまだに高いアルト&テナー・サックス奏者、ソニー・スティットの超絶激レア・アルバムの一枚。
最大の売りはプロ・デビュー間もないチック・コリア(P)の参加と、スティットが作曲したチックに捧げた「チック」という曲が入っているところ。
この曲は約35年前に、ジャズ評論家の油井正一先生が司会をしていたFM放送の深夜番組「アスペクト・イン・ジャズ」でチック・コリア特集が組まれた際、唯一、公共の電波に乗ったことがある。
この曲と、引き続いてチックが参加したデイブ・パイクの「マンハッタン・ラテン」というアルバムからの一曲が同番組で紹介されたが、それらの曲を紹介する際に油井先生は図らずも、この2つのアルバムは当時から「ほとんど現在では入手することは困難でしょう」と宣っていたほどの作品だ。
確かにその後、どんな中古レコード店を探しても、このアルバムはその存在すら確認することができなかった、というほどのレア・アイテムである。
この際にこの世界初CDを購入しておかないと、今後、何十年も入手できなくなるであろうことを予言しておく(小子はリアル店で本日このCDを発見、本日、迷うことなく即、購入した)
なお、どんな音楽が詰まっているかは、試聴できるので、お聞き下さい。
Sonny Stitt Bud Powell & Jj Johnson
一音の狂いもなく、もの凄いスピードでピアノを弾きまくるバド・パウエル。彼のベスト・プレイと言う人も多い。その音はとても重くシリアスで、どこか他人を寄せ付けないような超然さをも兼ね備えいている。そのパウエルを何もなかったかのように悠然と受け止め、堂々と優雅にヒューマンタッチなテナーを吹くソニー・スティット。正に唯我独尊の境地にいるかのよう。
ここでのパウエルのプレイを神がかっていると表現するなら、スティットのプレイは神々しいと言える。まるであのパウエルが、お釈迦様の手の中で暴れる孫悟空のようにすら感じられる。ソニー・スティットって何というスケールの大きなジャズ・プレーヤーなんだろう。彼のアルトはダイナミックで軽やかだが、テナーはまるで大河のように淀みなく流れ、ドラマチックで男気のあるフレーズを奏でる。
アルバム前半は、スティットとパウエルの息づまる攻防。後半はジョン・ルイスがパウエルに替わって、ピアノの椅子に座る。J.J.ジョンソンの渋いトロンボーンも加わり、一転してまどろみの世界へ。ここでも主役スティットのテナーはブルージーに冴えまくっている。マックス・ローチとカーリー・ラッセルのリズム隊にも、全編を通し、一点の汚点もない。
もし完璧なジャズ・アルバムがあるとしたら、私にとっては正にこれがそれだ。まるで天上人達が奏でているような音楽。とてもこの世のものとは思えない。
真夏の夜のジャズ
盛岡市内の今はない映画館で自主上映会があり、はじめてこの映画を見た。もう30数年前のことだ。スクリーンに登場するジャズミュージシャンにただただ感激した。なにしろ、外国のミュージシャンの画像なんて、まず見る機会がない時代だったのだから(東京と違って、コンサートもそんなになかった)。
ジャズミュージシャンもさることながら、客席の雰囲気にも魅了された。あるいは、むしろその影響のほうが多かったかもしれない。
後年、聴衆のシーンの多く(アイビールックの若者たちが体を揺らして聴いているシーンなど)が、別撮り(今ならヤラせなどと批判されるかもしれないが、そんな野暮は言いっこなし)だったと知って、「まんまとだまされた」と苦笑い。それでも、やっぱりこの「ドキュメンタリー」は名作だ!
ザ・サキソフォンズ・オブ・ソニー・スティット
1,2曲目がテナーの演奏で、3曲目、I'll Be Seeing Youでアルトの音が響いたとき、
「あっ、やはりStittのアルトは素晴らしかったんだ」と思う。
パーカーに似すぎていると言われ、その後テナーを吹くことが多かったとよく書いてあるが、この盤のアルトによる4曲を聴くと、もっともっとアルトを吹いて欲しかったと残念に思う。
(Stiittのアルトの音はパーカーより優しく、Sweetだと思う)
4曲目、 When You're Smilingはテナーだが、アルトのヴァージョンも聞きたかった、などと贅沢なことも考えてしまう。
(Stittはテナーを吹いていても、心はアルトみたいな吹き方だ。テナー専門の人とは明らかに違う。やはり本質的にアルトの人だったと思う)
勿論、後の”Stitt Plays Bird"(’63年)などでアルト1本の演奏を聴くことができるのだが、それはそれで、やはりこの’58年ROOST盤でもっとアルトを聴きたかった。
アルト演奏が11曲中4曲しかないのが、不満と言えば不満だが、それもここでの演奏がホントーに素晴らしいからこその、贅沢な望みなんである・・・。