いつかは恋を (講談社文庫)
珍しく50才以上の金型会社の女社長のラブロマンスの物語。友人の書評から、その評価を見て、購入。読んでみることにしました。
最初は、年齢を含め、様々な条件設定に戸惑いましたが、長い人生を乗り越えてきた男女の味わい深い物語は、様々な示唆に富み、一気に読み終えてしまう面白さがありました。そして、まだまだ私にも分からない夫婦のお互いの思いも描かれていて、10年後にまた読んで見たいと思いました。
この小説はやはり中年以上の読者でないと堪能できない部分が多く、その意味では非常に特殊な作品だと思います。
艶めき (講談社文庫)
藤田氏の作品の女性は、美化されていて、女性への愛を感じることが出来る。彼女たちの年齢が40代だったりするところもいい。(これは私の年齢からして嬉しいだけかも)。奥様の小池真理子氏が、女性の奥深くに眠る残酷な部分を抉り出そうとしているのとは、対照的でさえある。
七つの短編が収められているが、「古木の梅」が良かった。主婦の律子が、一緒に寺を回る男性と恋に落ち、夫との関係に終わりが来るかとおもいきや、「今は魔の季節、自分も夫も、他の異性を思いながら性の営みをしている。この季節が過ぎると穏やかな夫婦の暮らしが来る」という律子。やはり40代の私には、妙に理解できる内容だった。
モダン東京〈1〉蒼ざめた街 (小学館文庫)
ミステリの時代設定や舞台背景はいろいろあるが、本作で描かれている時代の東京の街なみと人々の生活のありようは、それを知らない自分にはとても新鮮に感じた。カフェのマダムと女給、下駄屋の婿養子、男爵など、現代では望みようもない登場人物の存在や主人公とのやりとりも面白い。
心理描写やスピード感を抑えた一見ハードボイルド風ではあるものの、行間の心情を読み取らなければいけないようなありがちな堅苦しさは無く、かといって物足りない訳でもない、物語として上手いバランスで成り立っていると思う。
徐々に明らかになる謎の結末は、実際考えてみると本当に悲劇的なのだが、それらすべてを飲み込み、気持ちを新たに次の事件に立ち向かうであろう探偵の的矢と助手の蓉子を、明るく応援したい気持ちになった。
艶紅(ひかりべに) (文春文庫)
個人的に恋愛物はありきたりの惚れた、別れた、あるいはお決まりの肉欲に溺れる不倫。という作品が多いので食指が向かないのですが、久々に当たった恋愛小説です。
京都を舞台に蹄鉄師の男と祇園のお茶屋で生まれ育ちながら、染物屋に勤める女との「職人同士」の大人の恋。それも単に感情に溺れることなく、互いに生業を理解・尊重し助け合いながら障害を乗り越え、生きていこうとする様を読んだ後は、「理想の恋愛ストーリー」に憧れた若かりし頃の思いを再燃させてくれるものがあります。
随所に挿入される京都の四季も、きっちり「落として」くれるラストもお見事。星4つにしたのは、もっと長編にしてもっと楽しみたかったからです。
女性のみならず、男性(特に中年層)にぜひ読んでいただきたい一!冊。
燃ゆる樹影 (角川文庫)
諏訪地域に住むものとして、興味を持ち、読んだ。
読みながら、これはどの道だろうかなどと思いながら読み、なおのこと興味深かった。
物語は、多少推理小説的な雰囲気もあり面白く、先へと読ませられてしまう。
そして、余韻を持って、物語は終わる。
この余韻での終わりも良い。あるいは、続きがあっても良い。
印象に残る一冊であった。