デュアン・サーク2〈12〉導くもの、導かざるもの〈中〉 (電撃文庫)
デュアン・サークは第一期から小説・漫画共に読んでおりますが、ふとレビューを
書いてみたくなったので、簡単ながら今作を読んだ感想を書こうと思います。
今作は前回の怒涛の急展開とは打って変わってストーリーに大きな変化はありません。
次回が最終巻を締め括る下巻という事もあり、今作はラストを盛り上げる為の準備に
徹しているのでしょう。だからなのか最終巻の中盤にしては地味な印象です。
内容は、騎士達とモンスターとの戦いや別行動中のサヴァランと金目銀目達の話が
多いように感じました(ズーニョは名前しか出てきません)。
その為、デュアンやアニエスやオルバといった第一期メンバーの話よりも、その周囲
の人々の話がメインとも言えるのではないでしょうか。
メインキャラクターの話を楽しみにしている方は少々物足りないかもしれません。
闇魔の登場から重々しい雰囲気が増してきたデュアン・サークですが、色んな合間に
挟まれるジョークは今作も健在で、私は主におじいさん達とウィラックと金目銀目の
やり取りが終盤とは思えないくらいほのぼのしていて良かったです。丁度良い息抜きに
なりました。
あと、思わぬところで意外なキャラクターの名前が出てくるので、「あっ!」と
驚く人も多いかもしれませんね。
最初にも書いた通り、今作はデュアン達メインキャラクターの話というよりは
彼等を取り巻く人達の話がメインであり、ストーリーも思ったより進んではいません。
それ故にメインキャラクターの描写が少なめで残念に思う方もいらっしゃるかも
しれませんし、進行が遅くて不完全燃焼といった気持ちになる方もいらっしゃるかも
しれませんが、今作はあくまでもラストを盛り上げる為の、いわば土台です。
それを念頭に置き、様々なキャラクターに目を向けながら読むと、より一層楽しめる
一冊となるのではないでしょうか。
※2010.04.11追記※
13巻である「導くもの、導かざるもの<下>」は最終巻の予定だったようですが、
筆者の都合で最終巻ではなくなったようです(13巻の後書き参照)。
サーク・オン・サーク (INFAS BOOKS―STUDIO VOICE‐boid Library (Vol.1))
ダグラス・サークという映画監督さんをご存知でしょうか。
フォードやホークスやワイラー・・・といったハリウッドの名匠ほどに有名ではないかもしれませんが、1940〜50年代にハリウッドで映画を撮り、ロック・ハドソンの出演作は8本も撮っている人です(風と共に散る、天が許し給うすべて、など)。
この人は実はドイツ人で、ナチを逃れてアメリカに亡命しました。で、この本は、晩年アメリカを去りスイスに住むようになってからジョン・ハリデイというひとがサーク氏に行ったインタビューをまとめたものです。
サーク氏の映画はメロドラマ、といわれていますが、色々な事情を抱えた大人たちが、その精神的弱さと欲望・愛・希望などに翻弄されながら生きるさまを描いています。つまり、理想的なヒーローチックな人物たちではないのです。結構みんな割り切れない、矛盾した行動をとってしまう現実の自分の人生を抱えながら生きている、というのが、なんか美しい音楽とともに、心優しい、だけどカメラとしての冷静さ、をもって、描かれてしまうのです。
そういう映画を作るサークという人は、とても礼儀正しく、ヒューマニスティックで、ユーモアがあり、博識でアイロニックで、もう噴出したくなるようなお話し上手な、魅力的な人です。
アメリカに渡る前は、ドイツで映画・演劇に頭角を現していたので、ドイツやヨーロッパの作品についての見識も深いし、才能のある人なので、ドライヤーやルノワールの素晴らしさ、についても、語ってくれていますし、照明やカメラが表現においてどういう役割を持つか、登場人物の性格の注目点、など、映画作家としての核心も、語ってくれています。彼が生きた時代の関係で、ナチ前後のドイツというものが、どういう感じだったか、も分かります。
また、翻訳者の明石氏がそういったサーク氏の人柄を理解されているような素敵な話し言葉で訳してくださっていると思います。明石氏によるサーク氏のバイオグラフィも付いていて、それによってインタビューでは分からなかった、サーク氏の人生の色々な事情も補足できます。また、フィルモグラフィや演劇など、資料も大変詳しいです。
サーク氏のDVDは、また、出版されるようですし、彼の愛情のこもった大人の視点、というものをもっともっと理解・堪能したい、と思います。