死者たちの語り (コレクション 戦争×文学)
霊的存在を死者と見立てる場合、二類型になってしまう、と思った。
一つは、花が咲く/枯れる、提灯の火が点く/消えるなどということとシンクロして現象としてははっきりとその神秘さが感じられ理解されるのに、それがはっきりと死者の人格を保っているわけではないということである。
もう一つは、人格的個性ははっきりとしているのに、名前が出てこない、在る事、存在することは判っているのに、それがどのようなものでどのように在るか、を説明し言葉にしようとするとなかなかできずに、そういう者としてしか表現できないということだ。
これは、霊的存在が実際、死者ではないということを示しているのかもしれない。が、勿論、死者との距離がそういうものでしかないというだけのことかもしれない。
こういう短編集を編むということは、普通の書籍にはない編者の才覚から蒐集力までが存分に発揮されることから、著者とは別に編者が前面に出て来ざるを得ないことも本企画を面白くしている点の一つであろう。
わすれなぐさ (河出文庫)
女学校を舞台に少女たちの交渉、生活、成長が描かれるという、吉屋信子の典型的な少女小説。乙女な雰囲気がたっぷり堪能できます。
3人の少女を軸に描かれる設定になっていますが、結果的には3人のうちの2人ばかりにスポットライトが当たり、あとの一人ははじかれてしまった、というか物語中にうまく取り込めなかったようで、お話全体のバランス配分は今イチな印象を受けます。
嶽本野ばら氏の解説と訳注は単独として読むとなかなか面白いのですが、なにぶんにも「平成的」にくだけすぎているので、本文と照らし合わせながら読むとちょっと雰囲気くずれる…と感じることも。あと、若干ながら間違いもあるようです。“五間の家”の五間はサイズじゃなくて部屋数でしょうに、とか。
あの道この道 (文春文庫)
「冬の輪舞」を見ている方々で、この作品に興味をお持ちになっていらっしゃる方も沢山いらっしゃるだろうが、あのドラマのイメージをこの本に持ち込むとがっかりする。しのぶも千鶴子もテレビの前半のイメージのままであり、新太郎、大丸、則子はテレビのイメージとは少しかけ離れている。
しかし、ストーリー自体は面白いので、ドラマと対比しながら読んでみては。
続 徳川の夫人たち 上 朝日文庫 よ 11-11
「徳川の夫人たち」が面白かったので「続‐」も購入しました。お万の方の人生を描いた「徳川の夫人たち」に比べ、こちらは歴代将軍の大奥に働く女性たちを中心に様々な主人公を描いて短編集のように進行します。ただ切れ切れに主人公が変わるのでなく、歴史の流れにそって話が途切れることなくすんなりと次の主人公に移行しますので、短編嫌いの私にも抵抗なく楽しめました。一人の人生をじっくりと読み込むのではありませんが、豊富な資料と周到な調査の上に、今までスポットの当たらなかった女性たちについて個性豊かに描かれている点は、面白かったです。ただやはり前作のような濃厚な物語を期待した方にはちょっぴり物足りなさを感じるかな、という点で星4つです。
名短篇、さらにあり (ちくま文庫)
北村薫が集めた短編集はいつも楽しい。今回も昭和初期の作家の短編集で、当時の様子がよく分かるし、相当昔の話のはずなのに、登場人物の人情の機微に振れることが出来るものばかりだ。
もっとも、『名短編』という題名から、短編のベスト版と思って読むと少し期待とは違うかもしれない。作風に多様性を感じるし、個々の作品から色々なものを感じはするけど、これぞ短編のベストといわれると少し違和感がある。やっぱり、今までの短編集のようにテーマを絞った方がよいのじゃなかろうか?
また、宮部みゆきはホテルで対談に参加しているだけのように感じるのは気のせいでしょうか?題名と編者は見直してはいかが?