アルベニス:イベリア 全曲
夜更けにFMから流れてきたこの演奏に、一瞬で心を奪われてしまった。当時もクラシックは聴いていたが、特にピアノ楽曲に興味が強かったわけでもなく、アルベニスという作曲家の名前さえよく知らなかったのだが、この演奏はピアノという楽器の魅力を存分に味合せてくれたという意味で、私にとって忘れられないものだ。
アリシア・デ・ラローチャというピアニストもこのディスクで初めて知ったのだったが、その音色の美しさといい、凛としたフレージングといい、何か突き抜けたような音楽を感じて心が震えた。私にとっては、ピアニストの「基準」とも言える演奏家の一人だ。
いい音楽(家)には、いい佇まいがあると思うが、ラローチャはそういう意味でも筆頭だ。このディスク以外のイベリアの演奏をさほど多くは聴いていないが、これ以上の演奏はないのではないかと思わせる。一生ものの愛聴盤だ。
スペイン南部ラ・アシャルキア案内―知られざるマラガ東部イスラム起源の小さな白い村々
本書は、筆者が愛着を持つマラガ東部の美しい村々について、歴史的背景からありのまま紹介することを目的としているようです。ツアー客に受けそうな誇大な宣伝文句などはなく、31の村の歴史や見所が、実直な調査に基づき淡々と解説されています。掲載写真(惜しくもモノクロ...)を見ていると、「白い村の本家」を是非とも訪れたいという思いに駆られます。
旅を愛する者として、知られざる土地を真面目にガイドするこうした良書の存在を喜ぶ反面、本書によりこの地域が脚光を浴びて俗化してしまわないか心配にもなります。白い村の代表カサレスやミハスは、今や観光客ずれして、複雑な歴史を宿しつつひっそり佇む風情などどこかへ消し飛んでいます。
過疎の村が観光化の機会を逃せば、後は消え行くしかないのかもしれません。静かな村々がそのまま残ってほしいという思いと観光化への嫌悪という、自分のわがままに気付かされる一冊でもあります。