龍の棲む家 (文春文庫)
自然、主人公の父親に自分の父親が重なり、主人公と同じ境遇に自分が置かれたときを考えずにいられなかった。
認知症になったと父親と、主人公らとの「会話の微妙なかみあわなさ」の描写が丹念で見事だと思った。
言葉の次元ではかみ合うことが減っていく親子の会話。心は言葉に振り回されやすく、親子の関係そのものが壊れていくと感じる人もいるだろう。
そこを、あえて症状と切って捨てるのではなく、「言葉の意味を超えて通じ合う何物か」を模索して、提示してみせる。
いささか教科書的に感じるほど、よく調べてあるものだと思った。認知症の進行の様子や対応の仕方なども含めて、思慮深く再構築されている。
佳代子の存在といい、小説だから起きる幸運もいっぱいなのだけれども、いつかくるときを思い描く手がかりに勧めたい。
中陰の花 (文春文庫)
死生観を題材にしていますが、決して、明確な形で死後の世界や死の瞬間、成仏、霊を提示しているわけではなく、いろんな形がありうるんだろうという素直な気持ちが出ていて、読後感はすがすがしくもあります。作者は現役のお坊さんということで、仏教用語も出てきますが、それも、この作品の味付けには必要不可欠だと思います。おがみやのウメさん、石屋の徳さんなども作品に彩りを添えています。則道と圭子の地に足のついた日常がしっかりと骨組みになっていて、よみ応えもありました。「水の舳先」よりは密な作品です。収録の「朝顔の音」も良かったです。
まわりみち極楽論―人生の不安にこたえる (朝日文庫)
芥川賞受賞の現役僧侶が書いているものだが、文字自体も読みやすく内容が項目別に分かれているので非常に読みやすい。(最初から順に読まなくても良い)
仏教の言葉を使い、それを分かりやすく説明している。一言の言葉の重みや強さが仏教にはあるんだと感じた。
普段の日常生活に何らかの悩みや不安のある方に、この本で少しでも心と体が楽になれば幸いという作者の思いが良く伝わる本だと思った。