災転(サイコロ) (角川ホラー文庫)
バカミスの第一人者である作者初のホラー作品。
全編に亘ってエログロナンセンス全開ですが、骨組み自体は怪異現象のメカニズム
を解明するオカルト探偵ものといったつくりで、意外と端正です(そういった意味では、
“呪い”がプロットを駆動していく『リング』の系譜に連なる作品ともいえると思います)。
サイコロにオカルト的意匠が施され、本作全体のモチーフになっているのですが、
そのサイコロに呪力が宿る原因となった、ある人の“殺され方”が、実に悪趣味
かつ陰惨で、強烈な印象を残します。
とはいえ、刺青を入れられた剥製ラット「タチュー」だとか、パンストを被らされた
三人の債務者が、顔中ゲロまみれになりながら借金帳消しを賭けてダイス博打
をする「パラダイスラン」といったあたりは、よくもまあ、そんなしょーもない、もとい、
ユニークな着想を次から次へと思いつくなあと感心させられます(あと「タマ串放電」w)。
結末で明かされる真相も、ホラーと悪趣味と笑いが、作者一流のさじ
加減で渾然一体となっており、他では類をみない、まさに《奇妙な味》。
一読して損はない作品だと思いますが、エログロ耐性は必須ですw
あなたが名探偵 (創元推理文庫)
本格ミステリは全てすべからく犯人当てミステリではないが、逆は真なり――と、本格の中にはアリバイ崩しや倒叙ものもあるんだから当然でしょ、というなかれ、犯人当てというか「読者への挑戦」付きミステリにはその枠組みの中で洗練されたアノ手コノ手のワザがあり、何なら鮎川哲也の創元推理文庫から出ている短編集を読んでくださいませ、いやーホントにン十年も前にこんなことを考えたひとがいるなんて、ちょっとした感動を覚えますですよ。近年、この種の感動を覚えたのは愛川晶『カレーライスは知っていた』(光文社文庫)。文句ナシの怪作集。
さて本書はこれらとくらべると、まーずいぶんスマートな出来(笑)。解答を公募したのだから仕方ないといえばそうなんですが。でも「カレー――」も懸賞小説だったんだけれど(しかも賞品自腹)。スマートなまま綺麗に解答編を纏めた法月綸太郎のが私のベスト。この「ゼウスの息子たち」は正解率50%を狙った上で、物語を仕立てたと思う。
赤に捧げる殺意
「火村&有栖」(有栖川有栖)が、メルカトル鮎(麻耶雄嵩)が、狩野俊介(太田忠司)が!」とあるように、作家の代表的な探偵を知る上では参考になると思います。作家と作品との橋渡し的要素を含んだ一冊。
霞流一のバカミスは、オススメです。読み終わった後に「そんな、バカな」と言いたくなるはずです。
鯨統一郎の作品も、ファンタスティックに仕上がっています。
「青に捧げる悪夢」とは少しテイストが違うので、一つの独立したアンソロジィとして読まれた方がよろしいかと。