山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略
ロジスティクス関連の書籍は数あれど、実際にそれを担当した人物によるものは少ない。多くは軍事評論家や歴史家によるものである。
しかし本書は、執筆したのは湾岸戦争時のロジスティクスの現場責任者であった現役中将というまことに稀有な存在である。
ロジスティクス(兵站・後方支援)の現場での奮闘ぶりの躍動感、分かりやさは他に類を見ない。
米軍のロジスティクス能力は間違いなく世界一である。本書は、それを現場で詳細に落としこむリーダーシップ論・マネジメント論として汎用性を持つ記述になっているし、また実際にそのような章も設けてある。
組織マネジメント論まで著者が語れるのは、軍人として大学院でMBAを取得していることや子供の頃からの苦労人としての生立ちが影響しているのだろう。本人の半生を振り返ることにより、商売の才覚、命を預かる現場指揮官としての心得、組織を動かすビジョン(定性的)と目標(定量的)の意義と実行などを身につけてきた様子が描かれるもの見事だ。
賢者は歴史に学ぶ、を実践している人物であることも本書が普遍性を持つ一因となっているのであろう。本書のあちこちに孫子やマキアヴェッリが引用され、実際の任務でもヴェトナムでは南北戦争の事例を応用し、湾岸戦争ではアレクサンダー大王の遠征を応用したとのこと。読みやすく、非常に面白い本だ。
名将に学ぶ 世界の戦術 (図解雑学)
すばらしい!
著者は過去の著作でなにやら怪しいものを書いたようですが、
本作は著者のその職業的知識に基づいた素晴らしいものになっています。
本の構成としては、始めに「戦術とは何か」を述べて、その後に
各章ごとに攻撃、防御、後退・遅滞、奇襲・急襲・強襲と分けて
戦例を見ていっています。
合計46戦例、日本古戦史から収録されているものが意外多かったのも
自分的には評価増しです。
見開き1ページごとに必ず図があるので理解しやすいですが、
戦術のための戦史なのでただ戦史を読みたいという人には
合わないかもしれません。
あと日本で定説とみなされている視点に沿って書かれています。
『戦術と指揮』と学研アーカイブ『戦術入門』を読んだ後で、
『名将たちの決定的戦術』とともに読むべき本ではないかと思います。
文句なしの星五つ!
戦時輸送船ビジュアルガイド〈2〉日の丸戦隊ギャラリー
意外と早く出た戦時輸送船ビジュアルガイドの2巻です。
前巻が特設艦艇中心だったので、戦時輸送船という本旨から見れば、この巻の方が充実しているとも言えるかもしれません。
内容的には航路や運航会社、戦前の商船発展上の重要なポイントをトピックとして項を立て、イラストと用を得た文章、そして模型作例で解説しており「ビジュアルガイド」の名に恥じません。
ほとんどの作例がフルスクラッチなせいもあり、具体的な模型作成の方法等に関する記事はありませんが、巻末の1/700図面は前巻以上に充実してるので、モデラー対応は十分でしょう。
戦記パートも、前回がエピソード集的な内容であったのに対して「資源船団戦史」として主要資源航路毎の通史として描かれており、相応に読み応えがあります。「戦時造船史」は何度読み返したかわからない、というような人でも気軽なビジュアル本として楽しめますし、戦時輸送船、戦時輸送入門者とっても、情報が取捨されていて判りやすいので、本書に目を通した上で「戦時造船史」や「船舶砲兵」などの定番資料、あるいは巻末資料に名前の上がっている各社の社史など進むと判りが良いと思います。
絶対値として少々高い価格には目をつぶって、まずこのテーマに興味をもったばかりの方にお勧めしたいです。
個人的に地味に嬉しかったのは、巻末に、一巻、二巻合わせた掲載船のインデックスが付されていることで、写真、図面、イラストの区別もあり便利で、こうした地道なアップデートも好印象で、本書を購入すると前巻の使い勝手も良くなります。
補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)
具体的な数字を挙げられていて丁寧に分かりやすいので、補給の困難性の本質がどのあたりにあるのか分かるようになってきました。
どんな作戦立案者も補給の必要性を切実に理解はしていたのに、ノルマンジーの連合軍といった極めて少ない例外を除いて確保できなかった理由が、また多くの作戦が補給に眼をつむって戦局を進めた背景がわかります。
また、兵站を歴史的に考察して、補給の方法(軍需倉庫から補給を直接受けた初期の段階、ナポレオンの略奪時代、基地からの永続的補給時代(馬車、鉄道、自動車))の興味深い実例が淡々と述べられています。
最後の「知性だけがすべてではない」という章に著者の結論と現代の軍隊の問題がまとめて極めて論理的演繹的に述べられていますが、ここはぜひ自らお読みください。
クラウゼビッツの戦争論をはじめとする、中公文庫のこのシリーズは良い本が多いですね。