平和に生きる権利
ラテンアメリカは日本から遠く、その実情はあまり知られていません。私も実はビクトル・ハラのことは知りませんでした。南米チリで生まれ活躍した歌手兼ソングライターで1973年独裁軍事政権によって二度とギターを弾けないよう手首を折られ銃殺された国民的ヒーローです。しかし虐げられた民衆の立場にたって歌う彼の歌からは恨みや悲しみだけでなく、明るい希望や情熱も感じます。若々しく力強い歌声は心に響きます。
このCDブックは歌詞の和訳ものっており、解説を合わせて非常に分かりやすい作りになっているのが良いです。
禁じられた歌―ビクトル・ハラはなぜ死んだか
ビクトル・ハラというシンガー・ソングライターの生涯をとおして、ふだん我々に入ってくるラテン・アメリカについての報道は、ほんの一面しか伝えていないことに気付かせてくれる。共産主義・社会主義についてのイメージも日本とラテン・アメリカでは大きく異なることがわかる。ラテン・アメリカ各国の現場に飛び込み、多くの友人を持つ著者でなければ書けないことが沢山書いてある。この本をきっかけに、もっとラテン・アメリカのことが知りたくなった。
ちなみにビクトル・ハラは政治プロパガンダ歌手では決してない。彼の音楽は歌詞を抜かしても、他にない魅力を持っていることを記しておきたい。
ELECTRO AGYL-BOP
SFUが90年代に放ったアルバムとしてはもっとも完成度が高く、時にこの時代を代表する作品として語られる傑作。
95年、阪神大震災の跡地で精力的な音楽活動を繰り広げた後のアルバムは、いつになくストレートなメッセージが込められている。「王様どうでもええじゃないか」と謳う一曲目、まさに読んで字の通り「平和に生きる権利」(原曲はチリの歌手、ビクトル・ハラ)などなど。モノノケサミットでは今一歩だったお囃子とチンドン・サウンドは見事にバンドサウンドと同居している。一方朝鮮やアイルランド民謡のカバーもあり、自由な雰囲気でもある。まさに「雑種天国」といった趣だ。
彼らほど一貫してグローバリズム的な活動を行うバンドはいないだろう。しかしこのアルバムで彼らが提示しているのは極左的な反体制ではなくて、無抵抗による抵抗といえる。それは音楽を真に信じている人たちだからこそメッセージとして伝わるのである。そしてそのメッセージは今の時代にこそ最大限に発揮されるのである。