バレンボイム音楽論──対話と共存のフーガ
モーツアルトを「身近に感じる」と言う資格がある人、ということではこの人が一番だろう。生きている天才、バレンボイム。10代ですでにピアノの大家で、以来、ずっと世界中で活躍してきた。指揮者としては毀誉褒貶ある。だが本当は、人々は彼の天才ぶりに「飽きている」のだと思う。モーツアルトだって、子供のころから天才だったから、30代で聴衆に飽きられていた面があったはずだ。バレンボイムはその2倍生きている。
そういうバレンボイムの頭のなかを覗き見させてくれる。本書は、サイードとの対談の延長上にあって、とくに前半は音楽論にかこつけた中東和平に関する政治談議だ。日本人にはちょっと遠い話でもあり、「音楽ではタイミングが重要だが、オスロ和平交渉にはそれが欠けていた」といった文章を読まされては困惑させられるのが普通だろう。
だが、それでも、随所に示される彼の音楽観には引き込まれる。サイードとの対談本や「自伝」と重なる話もあるが、批評家・学者の言葉にはない、名演奏家の言葉として説得力がある。批評家のように無駄に言葉を飾ることはない、極めて実際的な音楽論というか。とくに、量は少ないが、純粋に音楽だけを語った「第二部 変奏曲」は、どのページも面白い。まさにモーツアルト流の軽妙な精神で語られた「モーツアルト」が白眉。
とっておきのモーツァルト(8)心を癒すモーツァルト
「とっておきのモーツァルト」の「HEALING」。「とっておきのモーツァル」のシリーズは全部で10タイトル出ていますが、その中のひとつです。
これはくつろいだ気分にしてくれます。弦楽四重奏やピアノ協奏曲、クラリネット協奏曲、ホルン五重奏曲と多彩な演奏に加え、アダージョやアンダンテといった穏やかで、ゆったりとした演奏速度。寝る前のひとときをモーツァルトの音楽を聴いて過し、くつろいだ気分で眠りにつきたいですね。
マスネ:歌劇《マノン》 [DVD]
ネトレプコの魅力がたっぷりの舞台。演出の設定は50年代風で、マノンは映画スターを夢見る少女ということになっている。各場面のマノンの衣装イメージがオードリー、エリザベス・テーラー、モンロー風と刻々と状況により巧みに変化していてまたこれが心憎い。ネトレプコの体当たりの歌唱と演技、ビリャゾンの情熱のデグリュー、バレンボイムの指揮、渋いベルリン国立歌劇場オケも粋なフランスオペラを期待する向きには不満もあろうが、すべてのレベルが高く演劇としてもすぐれていて見終わった後の満足感は高い。
豪華な演出とフランス風の響きという点ではパリオペラ座の公演DVDもある(フレミングのマノン、アルバレスのデ・グリュー)
とっておきのモーツァルト(4)集中力を高めるモーツァルト
宣伝文句の集中力とか仕事がはかどるというのは疑問で、むしろリラックスして聞きたい。ヴァイオリンも良いが、個人的には後の方のピアノ協奏曲がお気に入り。さらにモーツァルトを知るための足がかりとしても。内容はとても良いが、嘘っぽい宣伝文句で星1個減。
アバドからラトルへの道~ベルリン・フィル首席指揮者決定までのドキュメント [DVD]
なんでもBPOは月例で楽団員会議を開くらしいが、もうリアル『のだめカンタービレ』というか、個性の強そうな楽団員の多いこと。1882年創立のBPOの主席指揮者といえば、フルトベングラー、カラヤンがあまりにも有名だが、新しい時代の指揮者を選ぶということは、BPOが「ベートベーンとブラームスにこだわるのか、それとも新しい方向にいくのかという未来を選択することでもある」という話や「新しいシェフと何かをつくっていく気持ちで選ぶ」なんていう言葉は印象的。
この時点で候補者はマゼール、バレンボイム、サロネン、ハインティンク、メータそしてラトル。「オーケストラの技術があがってきているのでマエストロはもう必要ない」というサロネンの言葉は面白かった。楽団員も「トスカニーニのような指揮者はいらない」といっていたし、まあ、そういった流れなんだろう。
ということで、どの指揮者とも関係を保ちたいBPOとしては、誰が何票獲ったかということは公表しないことを決めて最初の投票に臨んだが、1回目では決まらず、バレンボイムとラトルの決選投票になり、最終的にはサイモン・ラトルに決まったというのもデリケートに発表していた感じ。