珠玉のアジアン・ライブラリーVol.4 「Tatto -刺青-」 [DVD]
台湾出身のトップアイドル、レイニー・ヤンさんの主演映画です。
お相手は香港出身のクールビューティー、イザベラ・リョンさん。
可愛らしさと美しさが好対照の素晴らしい組み合わせですね。
監督はご自身もレズビアンである事を公表なさっているゼロ・チョウさん。
まずトップアイドルがそのアイドル性と人気を保持したまま、しっかりと性的表現を
演じたのが驚きですが、それが女性同士の表現であった事も素晴らしいですね。
日本人と台湾人とのハーフを演じたイザベラさんの
美しくも優し気でどこか怯えた様な表情にも惹き込まれました。
二人の性愛シーンは短いながらも、ただ「振り付けとしての濡れ場」ではなく
きちんと相手の心を、肌を、温もりを求める感じが出ていました。
レイニーさんの太腿の間に顔を埋めるようなセクシャルなカットもあります。
いまだ台湾の方々にとって生々しい記憶であろう1999年の台湾大地震やその孤児たち
障がいを抱えた弟、同居している祖母とのやりとりなど、重層的なテーマが含まれており
恋人二人だけで世界を閉じさせず、映画性の厚みも獲得しています。
過去を忘れてしまった者と、過去を忘れようとする者
そして過去の愛を頼りに生きている者が出会い、再生していく物語です。
レズビアンを特殊で特別なテーマとして描かず
二人の苦悩も喜びも愛もただ等しく人生のそれであり
相手を想い、求め、触れ合いたいという恋愛の本質と
人生の再生を描いた映画だと思います。
イザベラ [DVD]
マカオ返還前夜を舞台にしたイザベラ・リョンさん主演映画です。
静かな優しさと悲しみをたたえる女性を演じた台湾映画「刺青」の2年前の作品です。
役柄を実際のイザベラさんの性格に近づけるために、脚本を書き直したそうです。
逮捕が迫る腐ったろくでなし男が、いきなり現れた娘と名乗る16歳の少女との
共同生活によって、真っ当なろくでなしへと変わっていく物語です。
イザベラさんの美しい肌とスラリと伸びた手脚には、涼やかな少女の色気があり
ほっぺをリスの様に食べ物で膨らませ、パクパクかっ込む姿は愛らしく
酒をラッパ飲みし、酔っぱらって熱唱し、そして嘔吐し、タバコを吹かす姿にも
少女の魅力が表現されています。流れ落ちる鼻水さえも美しい。
幼さと達観が入り交じり、心に踏み入れさせないプライドと孤独が美しく
周りを振り回す奔放な少女の魅力に満ち溢れています。
男の苦しい心情を察した少女の「今聞く?それとも後で聞く?」と云う尋ね方や
逃亡の準備をまるで遠足に行くかの様にわざと明るくはしゃぐ姿に
繊細な思いやりが見て取れます。
奔放な少女を一途に思い、一切の見返りを求めず助け続ける実直な男子生徒を
作り手は突き放さず温かく扱っており、少女を見守る切なさを共有していると感じました。
メイキングの中で、実生活では父親を知らぬ環境で育ったイザベラさんが
母から渡された一枚の写真の中の父親に話しかけていたという
幼少のエピソードを涙まじりに語った後
涙を見せた自分を許せないかのように悔しがる表情に胸が詰まりました。
少女の切なくも美しく、ままならぬ在り方が凝縮した優れた少女映画であり
物語を悲劇にもハッピーエンドにも閉じ込めず、人生の開かれた可能性を肯定した作品です。