敬愛なるベートーヴェン [DVD]
この作品のヒロインである、
ダイアン・クルーガー演じる若く美しい女性写譜師アンナ・ホルツは
残念ながら架空の人物ではありますが、
たとえフィクションの映画作品の中であるとしても、
絶望的な孤独と苦しい病の中で人類への偉大な遺産を作り続けていた、
最晩年のベートーヴェンの側に、
こんな理想的な理解者が短い間でも寄り添っていてくれるなら、
ベートーヴェン本人はもちろんのこと、
彼の死後約180年後も世界中に存在する、
彼を敬愛する者たちの心も癒され慰められるというものです。
この映画には2つのテーマがあります。
第9が象徴する「聴衆の熱狂的な喝采と支持」、
大フーガが象徴する「掌を返すような無理解と拒否」。
ベートーヴェンの芸術人生はまさにこの2つの間で翻弄され、
引き裂かれていたわけですが、
ストラヴィンスキーが「絶対に現代的、永久に現代的な楽曲」と評した大フーガを聴くたびに、この曲について「いつか、誰かが理解してくれるだろう」と言ったと伝えられるベートーヴェンの言葉が思い出され、感慨深いものがあります。
DVDに添付されているカラー印刷のライナーノーツ(堀内修氏の筆による)は、
DVDのための書き下ろしオリジナルで、量・質ともに良い文章です。
監督のアニエスカ・ホランドはベートーヴェンの音楽、
特に後期弦楽四重奏曲の熱烈な愛好者であることを来日の際にも話していましたが、
彼女のベートーヴェンへの『敬愛』が隅々にまで感じられる、素晴らしい作品だと思います。
最後に、名優エド・ハリスへ。
あなたが素晴らしい俳優で芸術家であることは、
過去の数々の出演・監督作で知っているつもりでしたが、
・・・この役を演じてくれてありがとう!