大聖堂―果てしなき世界 (下) (ソフトバンク文庫)
ペストと聞くとかなり恐ろしいものを想像し、町中、地獄絵図が広がる気がするのだが、本書ではそこまでの感じは受けない。登場人物によっては罹り、生き残る者いれば、亡くなる者も出てくる。ペストにはマスク(今の新型インフルエンザみたいだ)という自己防衛策を巡って、ひと悶着起きる。
今回の下巻も(というか、とうとう最後まで)、かなりの物語ながら、内輪でいろいろまとめられているので、時間が経ってもそう人が増えることがなく、相関図が拡大するだけのようなものなので、本当に読みやすく助かる。この読みやすさが前作の人気の要因の1つだったのだろうか?
ようやく上巻で謎のままだった手紙の秘密が明かされ、悪人はそれなりの結果を招き、途中、「ええ?どうなるの?」という関係にも決着がつく。あの人までがそんな運命に、と驚くこともあったが、中世とはそういう時代だったのだろうかと想像するしかない。ところが、マーティンの娘ローラはとても中世の人という感じがしない。現代でいえば、コギャル世代だからだろうか?しかしマーティン、あんたはユルイ。男性から見れば「男の鑑」かもしれないが、自分にはちょっと・・・。
本書のタイトルが大聖堂だが、それもきちんとケリがつく。そしてその頂上にあったものとは。全体的に中世色が弱く、とにかく権力争いと色と欲に満ちた世界の中での、懸命に生きた人々のサバイバル史のようなお話で、時代を超越したところが面白かった。
スティル・エコー~クラシカル・
タイトルに書いたとおりです。それに尽きます。他に言葉はありません。そういう感覚は今まであまり持ったことはないのです。。大体が1曲につき、一つの楽器(一つの声)だけでの演奏です。ヒターってください。心が洗われて、そこに何かが沁みてきます。
大聖堂―果てしなき世界 (上) (ソフトバンク文庫)
1500万部を突破して世界が瞠目した『大聖堂』。ケン・フォレットは3年の歳月をかけて、邦訳版は文庫上・中・下巻合計1999ページという前作を凌ぐボリュームの巨編を18年ぶりに続編として送り出した。
舞台は同じイングランドのキングスブリッジ。時代はあれから約150年後の14世紀である。本書では大聖堂はあくまでシンボル的な存在であり、前作で活躍したトムやジャック、アリエナの末裔たちが織りなす人間ドラマが主流である。
主人公格のマーティンとカリス、グウェンダをはじめとする登場人物たちが幾多の試練に見舞われながら、物語は1327年11月から1361年11月までの34年間が描かれる。
はじめは橋の崩落、フランスとの100年戦争で荒れた国家、さらにはヨーロッパを席捲するペストの猛威。これらの災厄にくわえて、さまざまな人々の野心、貪欲、希望、愛憎、そして復讐、人間の生み出すさまざまな思いと葛藤。読者は、思わずマーティンやカリス、グウェンダらに感情移入してしまい、ある時は絶望し、ある時は憎悪し、またある時は喜びに打ち震えること請け合いだ。
また、彼らが子供時代に遭遇した“事件”の謎がこの長い長い物語の最後になって、“幸運の切り札”として解き明かされ、利用されるといった仕掛けもほどこされている。
本書は、前作ほどの歴史絵巻的なスケール感は感じられないが、個々の人間の営みがより一層身近に、まるでそこにいるかのように読者に訴えかけてくる。まさに稀代のストーリー・テラー、ケン・フォレットがつむぎ出した14世紀イングランドの一大ロマン小説である。