クール・ストラッティン+2
ドラッグのやりすぎにより、わずか31歳の若さで他界したピアニスト、ソニー・クラークの代表作。50年代のファンキーなムードをたたえながらもどこか、知的で複雑な要素を持ったアルバムだ。Cool Struttin'というタイトルとジャケットのおしゃれなセンスはおよそファンキーな土くささと相容れないし、Blue Minorの哀愁を帯びたテーマはホットに語りかけ、心を熱くさせる。米国におけるクラークの人気は意外なほどないという。日本ではマイナー好みな日本人の感性にフィットしたのかジャズ喫茶の超人気盤であった。アート・ファーマー(tp)、ジャッキー・マックリーン(as)というフロントラインも、哀愁とファンキー、知性など複合的なムードを引き出すことに貢献している。また、P・チェンバース(b)、F・J・ジョーンズ(ds)といえば当時のマイルスのリズム陣。後乗りのビートで全体をぐいぐい引っ張り、フロントラインを煽っている。58年といえばハード・バップが熟成しファンキーな色合いのジャズが絶頂期を迎えつつあったが、カーティス・フラーの「ブルースエット」やジャズ・メッセンジャーの諸作と並ぶ名演であろう。しかし、あえて単なるファンキージャズと一線を画したくなるのはクールなハード・バップという形容矛盾を犯してしまうほど、ソニー・クラークの美的で底知れぬ才能のゆえである。60年代、70年代、80年代のジャズシーンの中で、ソニー・クラークがどのような演奏をしていたか、聞いてみたいと思うのは僕だけではないだろう。だが、短い時間に生き急ぐようにして吹き込まれたクラークのキラ星のような作品の生命は永遠の輝きを放ち続けるに違いない。
ケン・バーンズJAZZ [DVD]
昔のJAZZの写真とか映像なんかそんなに残っていないんでしょうが、よくぞこれだけ集めて、10枚のDVDにまとめたもんだと感服します。そういった意味では、これはケン・バーンズさんの偉業であります。
しかし、私を含めてJAZZという音楽そのものを楽しみたい人には辛いものがあります。例によって解説やらインタビューが映像のそこかしこに散りばめられて演奏が分断され、まともに音楽そのものを楽しむことが難しいのです。JAZZの歴史やミュージシャンの人となりに興味のある方にはお勧めしますが、演奏をタップリ楽しみたいかたには不向きのDVDといっていいでしょう。
とはいえ、JAZZのドキュメンタリーとして割り切れば、これはこれでナカナカ見応えがあるようにも思えます。(何たって全巻で18時間近くありますから)
なお10枚のDVDの内容は次のようになっています。(カッコ内は英文タイトル)
第1章:ニューオリンズ/人種と音楽のるつぼ (Gumbo)
第2章:天才の出現 (The Gift)
第3章:ジャズ・エイジ (Our Language)
第4章:大恐慌とジャズ (The True Welcome)
第5章:スイングの黄金時代 (Swing: Purs Pleasure)
第6章:カンザス・シティ・ジャズ (Swing: The Velocity of Celebration)
第7章:第二次世界大戦下の混迷 (Dedicated to Chaos)
第8章:ビバップと高い代償 (Risk)
第9章:モダン・ジャズの巨人たち (The Adventure)
第10章:ジャズとは何か? (A Masterpiece by Midnight)
マイルス・デイヴィス青の時代 (集英社新書 523F)
著者のマイルス新書シリーズの第1作。私は本書を読むのが最後になったが、やはり年代順に本書から読み始めるのが望ましい。なぜなら、第2作以降では年表の不在が気になったが、本書冒頭に1926−91の年譜があるではないか。第2作以降もこの年譜を参考に読み進めるべきだろう。
ピカソの青の時代に相当するマイルスの青の時代として、著者はマイルスの生い立ちからアマチュア時代、プロ・デビュー、演奏スタイルの確立、アレンジャー/オーガナイザーとしての卓越した才能の開花の足跡を辿り、同時に至高の傑作カインド・オブ・ブルーに至るまでの数々の名盤(ディグ、ウォーキン、バグス・グル―ヴ、ラウンド・アバウト・ミッドナイト、マイルス・アヘッド、サムシン・エルス等)を名盤たらしめている秘密を探る。そして、この時代のマイルスと多くのモダン・ジャズの巨人との交感やケンカ・セッションの真相等も丁寧に明かす。
ジャズのどの作品を聴こうかと迷ったら、マイルスを聴くべきであり、ジャズ入門者はもちろん、40〜50年代のジャズに詳しい人にとっても新たな発見がある好著だ。