民宿雪国
書店店頭でふと手に取り、本好きの間で話題になってたなと思い出して購入しました。
単なる猟奇殺人がからむサスペンス物だと勝手に思い込んでましたが、全くそんな予想を覆す、小説という枠をこえた作品でした。
1章目で既に常識をくつがえされながらも、そこである程度完成してるので、次はどうなるんだろう?と思って読み進める事になります。
すると、主人公の生い立ちになり、ここでトーンが落ちるのかと思いきや、全くそれは許されずに一気にラストまで読まされる・・・。
全くすごい作家が出てきた物です。荒削りではなく、計算されて荒く書かれ、一気に読者を奈落の底に落とす。そんな小説です。
ほかならぬ人へ
直木賞を受賞した、という安易な理由で読みました。作者にも作品にも最初から先入観がなく、また、ここが重要ですが、私が女性読者であるためか、表題の「ほかならぬ人へ」の作品の良さがそこまで理解できませんでした。
名家に生まれた落ちこぼれである主人公の男性のイメージは、線が細く優柔不断で、そのくせ男性のプライドをこっそりと秘めている人。その男性が、周りに現れるそれぞれの魅力を持った女性たちのあいだで揺れ動く。
かなり男性目線の物語運びだと思います。男性の感傷がこんなものだとは言い切れないし、私の勝手な偏見ですが…。複数の女性から好かれ、選ぶ側にまわる男性の設定は、ゲームでも、男性用の小説でも、よくあるものだと思います。
筆運びが繊細なので上質な物語になっているのですが、筋は、「育ちがよろしくなく、幼稚な美人か、仕事も料理もできて、スタイルも抜群、でもブサイク、さて、どちらの女性をとる?」と巷でよく交わされる究極のニ拓を要は物語にしているだけのようにも思います。女性を理想化し、やさしいものに昇華しすぎているようにも、感じました。
女性側からこのほかならぬ人への世界を見てみたいものです。
心に龍をちりばめて (新潮文庫)
私は白石さんの本はこれでたぶん5〜6冊目になると思う。他の作家と違って何故かこの人の本は一冊読み終わるとまたすぐに次が読みたくなるのだ。正直ファンだと言ってもよい。
この本はもともと単行本だった時にはすぐに手に取ろうとは思わなかったのだが(理由は後述)、文庫になってその表紙の美しさに(こういう感じの透明感のあるグリーンが大好きなので)本屋で見つけて思わず衝動買いしてしまった。
で、読み終わった感想としては非常に面白かった。主人公が女性であること、その彼女が最終的に伴侶とするのが氏の小説においては珍しい施設出身でかつてアウトロー的な生活をしていた男性であるということ(「龍」というのはその男性の背中の模様のことです )…あと九州弁が音的に心地よい(私は生まれも育ちも京都なのだがw)等々、ちょっとこれまで自分が読んだ氏の他の本とは違う感触が新鮮ではあった。
ただし、『一瞬の光』や『ほかならぬ人へ』や『見えないドアと…』などのように読み終わった後にどっしりと自分の心の中に何かが残るというものではなかった。正直「ああ良かったね」的な読後感で、氏の他の作品の読後感に特徴的な「浄化」的な持ち味が薄かったのである。
一つには私が過去に児童養護施設で勤務していたこともあるし、今は帰化をして日本国籍を取得しているがかつては在日韓国人だったということもある(ちなみに、元のファーストネームは”龍”といいます)。そういった出自にまつわる要素を割と安易に、あんまり必然性が感じられない形で登場人物の性格付けの材料として、「記号」的に用いているのではと感じたのだ。特に主人公と政治家を目指す男性との別れ際の凄まじいケンカの場面での主人公のセリフを読んで、「この人…もしかして右翼?」と勘ぐりたくなってしまった。
それ以外にも、「魂の再生を描きたいのは分かるが、結局男と女がロミオとジュリエット的に艱難辛苦を乗り越えて結ばれてメデタシメデタシ」というパターンの使い回しですかそうですか、とか。それがそうそう「奇跡」とか「偶然」みたいなご都合主義的展開がいくつも重なって(作者は”シンクロニシティ”だ、と主張するだろうが)、あたかもそれが神の用意した自分の運命を受け入れることで人は自らの生をはじめて本質的に享受することが出来るのだ、みたいな。
確かにそういうこともあるのかも知れない。でも、それって結局「ドラえもんのタケコプターがあれば空を自由に飛べるのになあ」みたいな話ではないのか?かつ、何故いつも「男と女」なのか。「男と男」「女と女」では魂の再生は不可能なのか?あるいはそういったラッキーな(笑)展開に恵まれず魂を再生するチャンスを逃したまま人生の終わりを迎える…そっちの方がずっと現実に即した物語ではないのか。
何と言うか、「読者受けするパターン」を使い回しているうちに「この人いっつもこういう話ばっかり書いてるなあ」という作家になって欲しくないので。そろそろ「魂の再生」に至る道のりや方便の「別ルート」や「変化球」を開拓していった方がいいと思います。