HEART
プロデューサーにAndrew GoldとGeorge McFarlaneを迎え、非常に洗練されたクールな音たちに、矢沢氏がその都度求める音楽エッセンスの拘りを感じますね。何かダンディズムのニヒルな要素がそのまま音として表れてゆく作品です。例えば3での内省的に泣かせる情感表現が素晴らしいギターソロや、一方ジャジーな5での静かなる哀愁を醸すように坦々と刻むリズムセクション等、どれも男の不器用な心模様を絶妙に滲ませてきますし、いいアルバムなんです。
GeorgeはLONDON PROJECTを担当し1「涙が…涙が」、3「もう戻れない」、4「闇の中のハリケーン」、9「ハートエイクシティ」、11「この海に」を収録。やはりギターのインタープレイなどAORなロックが聴き所になり、全体のファンクさをアダルトに仕上げてゆきます。4のアグレッシヴなシンセもいいですね。
AndlewはL.A.PROJECTを担い、2「バット・ノー」、5「東京」6「心花よ」7「ランブリング・ローズ」8「黄昏に捨てて」10「魅惑のメイク」を収録。ソウル/ジャズのアプローチが琥珀色に輝く一方、7や10のロックでは、日本人離れした非常にラフでタイトなテイストにより海外での音作り効果がよく楽しめる箇所です。
「東京」は日テレ『はだかの刑事』主題歌で、同番組のスポットでCMもありました。さすが松井五郎、矢沢氏の趣旨を十二分に慮った男の背中を描いてきます。このテイストはASKAや玉置浩二との作品とはだいぶ違う側面ですね。また矢沢氏の旋律、歌も非常に甘美。特に歌は「黄昏に捨てて」の透明なアレンジにも調和する円やかさを今作では見せており、情熱とメロウさのバランスが絶妙ですので、熱さだけでは決してないシンガー矢沢永吉の素晴らしさを堪能しました。
最後に言葉数少ない大津氏の11は今作の哀愁を物語るに相応しい締めくくりですね。