真夜中への挨拶 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
Dalziel & Pascoe シリーズの一冊 (2004). 倒叙形式の本格ミステリーだが,この著者ならではの巧妙を極めた語り口で,予想もつかない展開を見せ読者を圧倒する.基調となるのは 19世紀アメリカの女流大詩人 Emily Dickinson の多数の詩で,題名もそこから採られた.とは言うものの,性的表現のイギリス流隠語が見事な程に滔々と流れ,これがアメリカでも通用するのかな,といささか心配.とかく硬くなり勝ちな本格ミステリーが Dickinson の怪奇な詩と盛大な性的隠語のお蔭で奇妙に人間的な雰囲気を与えられ,読むほうはじっくり楽しめる仕掛になっている.この殆ど暗号みたいな英語を見事に訳し抜いた松下祥子氏の力量は掛値なしに驚異的で,いくら褒めても十分ではないだろう.イギリスに興味を持つ向きには絶対推薦.